Photo by (c) Tomo. Yun


生 存 機 制

―映画Fortress (邦題『復讐教室』・1986年豪)
 

舞台となっているオーストラリア内陸部(アウトバック)の自然は、荒々しいというというのを越えて人間には無関心であると思えるほどほど空虚かつ閉塞的で、この映画の作風によくっ合っています。ちなみに、荒れ野に建てられた井戸水を汲み上げるための細身の風車がカラカラ…と回っているのは、オーストラリア映画でよく見かけるシーンですが、あれは地表近くの土壌の塩が強すぎるために必要なのだそうです。

 先に書いたようにこの映画はいたって低予算なのですが、覆面男たちの素性も動機も語られないために、「このままでは確実に殺される」という理不尽な認識が、女教師(サリー)と生徒たちの中でじわじわと自明になっていく描写は秀逸です。原始的恐怖とでも言うべきでしょうか?筒井康隆の短編『走る取的』なんかを読まれた方は、この辺りの機微がご理解いただけるかも知れません(笑)。


 私がこの作品とつい対比してしまうのが、ゴールディングの『蝿の王』です。裏『十五少年漂流記』などと呼ばれたりするこの作品ですが(笑)、遭難し無人島に漂着した少年たちが、始めは法螺貝などを使った自制され秩序立った共同生活を営もうとするも、やがてそれは瓦解し、ついには全島をめぐる「人狩り」に発展していく…というのは、『復讐教室』に描かれるヒトの生存機制、そして終盤に描かれる「狩るもの」と「狩られるもの」の主客逆転に共通するものがあるかと思います。(ちなみに、さきほどの水中洞窟はサリーと生徒たちが「一線を越える」ことの隠喩として機能しています) ただし、『蝿の王』がその終末に、脱力してしまうような安堵感を用意しているのに対して(イギリス人将校が現れる場面です)、『復讐教室』でえがかれる蛮性は、瓶の中の澱のように、沈殿したままです。

…この作品の一番最後のシーンをどのように捉えるか、それは皆さまに委ねたいと思います。

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…教師と9人の生徒にとって、その日の授業は殺すのか、殺されるのかということだった。
(宣伝文より・ASTER訳)

 というわけで、Libraryコラム第1回はオーストラリア映画 Fortress (邦題『復讐教室』)です。(ちなみに、邦題には『リトルソルジャー 砦の奇跡』という、どうにもテーマを曲解したとしか思えない副題がついていますが、まあそれは良いとして(笑)。原作者はGabrielle Lordという犯罪フィクションものの小説家で、「John Francis Eastway」事件という実際の誘拐事件をベースとしています。

 ASTERがこの作品を某有料放送でたまたま見かけたのが十ウン年前の少年時代…TV放送用の低予算映画に過ぎないのですが、それでも作品中盤の水中洞窟を通っての脱出シーンがえらく印象的で、数年前になって改めてVHS版を購入しました(笑)。
今見返すと、まあ、件の水中シーンもさほど衝撃的ではないですが…でも子役の女の子には相当無理させてます(笑)。どうやってオーディションしたんだろ?字幕なしのオージー訛りは辛いですが(ただし、主演のRachel Wardはイギリス出身の女優なので分かりやすい)
、何とかいけます。

…オーストラリアの片田舎の分教場で、9人の生徒たちがめいめいに勉強したりふざけて女教師に叱られたりしているところに、銃を持った4人の覆面男たちが突如として闖入。有無をいわさず全員拉致して山中の洞穴内に監禁し、そして前述の水中洞窟シーンへとに繋がっていくわけです。