#3「水底」
高飛び込み用プール、その水深は五メートルだった。底まで潜るとさすがにゴーグルが圧迫され、少しばかり胸が苦しい。
世界は青く染まり、循環する浄水の音が、微かに微かに響いている。競泳用水着をまとい、長い黒髪を水に揺らめかせながら、沙耶は俺に向かい合う。水圧など気にもならない様子で、彼女は俺の腰をつかまえると、水着から俺のモノを引っ張り出した。彼女の身体はマイナス浮力になっていて、肺いっぱいに息を吸った俺の浮力を、うまく相殺してくれる。
ちろりと彼女が口唇をなめる。口を開けても、小さな泡が、ほんの少しこぼれるだけだ。紅い唇から舌を突き出し、『俺』のくびれに沿って、ゆっくりと這わせてくる。
水を含んだ口中の舌は水温と同じになっているのかと思っていたが、彼女の舌は、驚くほど熱かった。
ごぼっ。
快感に息がもれる。柔らかな、ときに吸いつくような舌と口唇の感触、あまりにも甘美な愛撫。ときおり、目の前が真っ白になる。
沙耶の長い髪が広がり、うねり、水に揺れている。一心に奉仕してくれる彼女は、水中で息を継いでいるのだろうか。
快感に翻弄されたまま、もう、潜ってから二分は超えているだろう。俺の息こらえの限界は三分半と言ったところだが、こんなことをされていては、とてもそんなに保ちはしない。
柔らかな舌が、とりわけ敏感な部分を、つっ、となぞった。
ごぽぽぽっ。
背筋に電流が走り、大きく息がこぼれてしまう。熱い舌と口唇は続けて俺の敏感な部分をたどり、ねぶる。大きな黒目がちの目が俺を見上げ、くっと笑ってみせる。
(くるしいの? ケイちゃんには、空気が要るんだものね)
彼女の声が、直接頭のなかに響く。
不意にキスしてくる。口の中に空気があふれ、限界だった肺は、むさぼるように吸い込んだ。二度、三度。呼吸器官がいったいどうなっているのか、水を呼吸しているはずの彼女は俺の望む限り、いくらでも空気をくれる。
(ケイちゃん、あたしはあなたのこころが読めるの。だから、気持ちいいところが、ぜんぶ分かるのよ……)
声なく笑い、俺を底に押し付け、のしかかってくる。
(ね、あたしにも、さわって……)
導かれた指が、水着越しに熱いぬめりに触れる。そっと指を差し入れると、水着の底は、沙耶の泉からあふれたもので一杯だった。
股布をひっぱり、その部分を露出させて、唇で触れた。彼女のそこは、幼い少女のように柔らかで無毛だった。キスするように吸い付き、あふれてくる蜜を、俺は飲み下した。かすかに潮の香りがする。
さらに舌を伸ばす。熱い粘液と一緒に口の中に大量の水が入ってくるが、かまいやしない。咽喉で水をせきとめて、俺は彼女の谷間を、丹念に舌と唇とでたどる。
淡いピンク色の柔らかなひだが、俺の動きにあわせてひくつき、悦んでいるのが分かる。敏感な芽を強く吸うと、沙耶が大きく身をそらせた。
髪をゆらめかせて何度も首を振り、開いた口からは細かな泡がこぼれる。胸が激しく波打っている。彼女は、軽く達したようだった。
(ああ…… ケイちゃん。こんな気持ちいいこと、はじめてだよ……)
それから何度も、おたがいの敏感な部分を、唇と舌とで刺激しあった。沙耶が息をくれるので、一度も水面には出ないままで。
青く深い真夜中のプールの底でこんなことをするのは、何かが壊れてしまいそうな気持ち良さがあった。これが、水に棲むものだけに許された快感なのか。だとしたら、俺も彼女と同じものになりたい、そんな考えすら心をよぎる。