麻耶と千登勢は、二手に分かれて「部屋」の中をくまなく調べて回った。
しかし、残念なことに大した収穫はなかった。「部屋」は、差し渡し20メートルほどのいびつな円形。天井は、よく分からないが4メートル以上はありそうだった。もちろん、外や他の洞穴に抜けられるような横穴はなし。
ただ、入り口の反対側に小さな池があった。水深なんかは分からなかったが、ただ不思議なことに水底の方が緑色に光っているように見えた。最初にこの部屋に入ったときほの明るいと感じたのは、この光が天井に反射しているせいかも知れなかった。
ひととおりの調査を終えると、二人はまた自然石の椅子に戻ってきた。
「いやあ、ダメだねえ。まあ期待はしてなかったけどさ」
麻耶は腰を下ろすと、わざとおどけた口調で言った。
千登勢をあまり落胆させまいと思ったのだが、その願いも空しかったのか、千登勢の方は硬い表情をしていた。
「麻耶ちゃん」
「何」
「あの奥の池だけど、どうして底が光ってるのかな」
「ああ、あれね。多分どこからか光が差しこんでいるんだと思う」
「光?お日さまの光?」
「うん。あの池も、池みたいに見えるけどそうじゃなくて、洞窟に水が溜まってるだけなんじゃないのかな。そして、奥で竪穴とつながっていて、そこから日の光が漏れてくる」
「へえ」千登勢が答えた。「あたしね、前おじいちゃんに聞いたことがあるの。湖の周りの洞窟には、湖の底とつながっているのがあるって」
「ふーん」
今度は麻耶が答えた。ここからの脱出には、あまり参考になりそうにない。水中洞窟か…いや、待てよ?日光?外とつながっている?
麻耶はぱっと立ち上がった。
ある思いつきが、頭を支配していた。とんでもない思いつきだということは分かっている。しかし、今はそれを試さずにはいられなかった。さもなければ―絶対考えたくはないが―さもなければ、千登勢も自分も生きてここを出られないかも知れないのだ。
胸がどきどきしていた。
「何をするの?」
いきなりボストンバッグのジッパーを開け、水着を取り出し始めた麻耶に、千登勢が不安そうに尋ねた。
「実験」
「実験?」
「そう。ここを出るためのね」
W