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  その外国製らしい大型のワゴンは、通学路沿いの、湖の土手の上に停まっていた。

 ここは観光客が使う林道からは離れているし、湖とは言え周囲に休憩所やレストランがある訳ではない。さらに釣りの推奨スポットという訳でもないから、地元以外の人間が、朝早くこんな場所にいることはちょっと考えられなかった。
  ワゴンの後部扉は開け放たれていて、どうやら人の男が外で作業をしているらしい。
車の陰になってしまってよく見えないが、大きな荷物を引きずり、ワゴンの荷物室から運び出している。この岸辺からは舟ででも運んでいくのだろうか。

 麻耶は、何かいやな感じがした。千登勢に、気にしないで行こう、と言おうと思ったが、その時は好奇心に駆られた千登勢はもうかなり前を行っていた。

 「何してるんですか?」

  千登勢に声を掛けられた男は、作業を中断してふと顔を上げる。
  すると、千登勢がその場に立ちすくむのが見えた。
  どうしたの、と言おうとした麻耶も、千登勢の向く方に視線をやったとたん、自分の背筋を突然冷たいものが通り抜けるのを感じた。
  大男だった。人ほどもある、ごつごつとしたキャンバス袋を抱え込み、力いっぱいに土手に引きずり下ろそうとしている。
 着ている開襟シャツの胸には、赤いしみがべっとりとついていてーそしてその上の顔は、まるで村の稲荷のお社に掛かっているような、青い天狗のお面だった。

 「千登勢!」

  麻耶は急いで駆け寄ろうとしたが、男はすぐ泣き叫ぶ千登勢の口を押さえ、もう片方の腕で両手を後ろから捩じり上げてしまった。
  「千登勢に何すんの!」
  麻耶はもう一度叫んだが、すでに膝が恐怖で笑ってしまっているのが分かった。
  男は、千登勢をがっちり抱え込んだままで、じりじりと土手の下にいる麻耶まで近付いてくる。麻耶はその男の気迫に押される形で、数歩後ずさりをした。
  すると、背中がふいに堅いものにぶつかる。人だ。誰か、見ていてくれた人がいたんだ。安堵の気持ちが胸に広がる。ああよかった、助けて―と麻耶は振り向いて言おうとしたが、そのとたん麻耶の表情はこわばり、その後の言葉を飲み込んでしまった。
  その男―天狗の男よりも、一段と背が高く体格のいい男―は、子供の絵本に出てくるような、真っ赤な鬼のお面をしていたのである。