ピアノ協奏曲第2番ハ短調 (ラフマニノフ)


演  奏録音年
アシュケナージ(p)、プレヴィン指揮/ロンドン交響楽団1970年
ラフマニノフ(p)、ストコフスキー指揮/フィラデルフィア管弦楽団1929年
リヒテル(p)、スタニスラフ・ヴィスロツキ指揮/ワルシャワ・フィル1959年
ガブリーロフ(p)、ムーティ指揮/フィラデルフィア管弦楽団1989年
アシュケナージ(p)、コンドラシン指揮/モスクワ・フィル1965年
ミルカ・ポコルナ(p)、イジー・ワルトハンス指揮/ブルノ国立フィル1968年
ジルベルシュテイン(p)、アバド指揮/ベルリン・フィル1991年
ラン・ラン(p)、ゲルギエフ指揮/マリインスキー劇場管弦楽団2004年



[個人的ベストCD]

アシュケナージ=プレヴィン盤

ヴラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
アンドレ・プレヴィン指揮
ロンドン交響楽団
(録音:1970年)







全体的に、ピアノ、オーケストラともに重厚でふくよかな音色が特徴。また、両者の見事な一体感が聴くものを感動させます。

第1楽章の、特に第1主題の弦楽器はすばらしいです。重く、暗く、どろどろネバネバとした雰囲気がまさに私好みの演奏でした。というより、こういう演奏の方が、第1主題の性格にマッチしているのではないかと思います。

第2楽章、第3楽章はアシュケナージの独壇場です。第2楽章のアシュケナージのまろやかで温かみのある音色は、もう、右に出る者がいないのではないかと思わせるほどの美しさです。第3楽章は冒頭からわりと飛ばしていますが、何事もないかのようにサクサクと進んでいくので圧倒されます。サクサク進む割に、低音がよく効いていてドッシリとしているので安心感がありますね。

また、第3楽章のコーダのピアノとオーケストラの見事な一体感は天下一品です。鳥肌もんです。



[是非一度聴いてほしいCD]

ラフマニノフ・プレイズ・ラフマニノフ

セルゲイ・ラフマニノフ(ピアノ)
レオポルド・ストコフスキー指揮
フィラデルフィア管弦楽団
(録音:1929年4月10、13日)







作曲者自身のピアノによる歴史的な名盤。録音年代が古いため、ノイズがあったり音量の幅が狭かったりしますが、それは仕方がないです…。

いったい作曲者はどんな感じで弾くのだろう、感情移入は激しいのだろうか…などとかなり期待しながら聴きましたが、なかなかに度肝を抜かれる演奏です。とにかく「速い」のです。
多くのピアニストが11分前後で弾く第1楽章を9分46秒で弾き、第2楽章を10分49秒、第3楽章を11分ジャスト、と、他のピアニストたちよりもそれぞれ30秒から1分程度速く弾ききっています。

また、今日ではたいていゆったりと歌われている甘美なフレーズも、ラフマニノフは何事もないように素通りします。これは意外でした。

ただ、いくら録音状態が悪いといっても、ラフマニノフの強靭なヴィルトゥオージティは鮮明に伝わってきます。細かなパッセージの見事な演奏や、どこからそんな音を出してんねん、と言いたくなるほどのパワフルなフォルティッシモは痛烈でした。全体的に重く、ドッシリとした印象を受ける演奏です。



[他のCD]

スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)
スタニスラフ・ヴィスロツキ指揮、ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1959年4月)

 このCDもベスト盤として推したいところです。録音年代はかなり古いですが、ステレオ録音である上に驚くほど音質が良いです。
 本当は、アシュケナージ盤とともに「個人的ベストCD」に並べたかったのですが、「『ベストCD』は1枚」という奇妙なこだわりが捨てきれなかったので、泣く泣く下位に置くことにしました。

 下位に置くことにした理由は、「少しピアノが目立ちすぎているかな」という点です。別に、ピアノが目立つこと自体は悪いことだとは思いませんし、他の演奏家の演奏ではオーケストラに埋もれてしまって聴こえないような箇所でもはっきりと聴こえてくるので、そういった点では非常に好きなのですが、アシュケナージ=プレヴィン盤のピアノとオーケストラの見事な一体感の前には一歩及ばず、という印象を受けるんですよね。
 したがって、これは完全に個人的な趣味の問題でして、このリヒテルのアルバムも絶賛すべきアルバムであることに変わりはないと思います。

 とにかくパワフルな演奏です。第3楽章の冒頭のカデンツァは圧倒的な迫力で、聴く者を飲み込むかのような勢いを感じます。



アンドレイ・ガブリーロフ(ピアノ)
リッカルド・ムーティ指揮、フィラデルフィア管弦楽団
(録音:1989年)

 冒頭からガブリーロフの強靭なタッチが炸裂しています。 第1楽章は、特に展開部後半から再現部に至るまでのスリリングな展開が聴いていて飽きません。第3楽章ではガブリーロフのヴィルトゥオーゾぶりがいかんなく発揮されており、特にコーダ後半の、ハラハラさせるほどの急速なテンポで疾走し、猛烈な勢いを保ったまま曲を締めくくるところが魅力的です。

 そして、特筆すべきは第2楽章です。わりと遅めのテンポを取っており、ゆったりと歌い上げています。特に途中、短調に転ずる部分の情感はピカイチです。中間部では少しもたついている箇所もありますが、それを補って余りある抒情的な演奏だと思います。

 けっこうおすすめできるアルバムだと思います。



ウラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
キリル・コンドラシン指揮、モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1965年)

 アシュケナージ28歳の時の録音です。後のプレヴィン盤などと、演奏上の解釈は基本的に変わっていないと思います。テンポのとり方やイントネーションのつけ方などほとんど同じように聞こえます。

 ただ、どうしても比べてしまうのが、「オーケストラとの相性」という点です。プレヴィン盤で恐ろしいほどのオケとピアノの一体感を見せつけられたので、この録音でもその点を重視して聴いてしまいました。相性という点ではやはり、プレヴィン盤にはかなり劣りますね。オケとピアノが不揃いな箇所がわりとあります。

 全体的に、何となくあっさりとした印象を受ける演奏です。ピアノが少し重量感に欠けるという点もかなり残念。また、第1楽章冒頭の弦楽器が軽すぎる。個人的にはあの冒頭のフレーズは重々しく引きずるように演奏して欲しいのに…(まあ、これは指揮者等との嗜好の違いだろうから、こんなことを言っても仕方がないのかもしれませんが)。
 ちなみに、第3楽章の一番最後のシンバルの破裂音がとても乾いていて威勢がよく、最後の最後についにやってくれた!!って思いました。



ミルカ・ポコルナ(ピアノ)
イジー・ワルトハンス指揮、ブルノ国立フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1968年)

 まず、一つだけ言っておきたいのは第2楽章。録音後の編集作業の過程でミスしてしまったのでしょう、途中、ごっそりと抜け落ちてしまっている箇所があります。まあ、それほど不自然でもないので許せなくもない範囲のミスですが、この楽章を知っている人からすると、かなり違和感があるかと思います。

 演奏面ではいろいろと独特の解釈を楽しませてくれます。まず、第1楽章の冒頭の鐘の音を模したフレーズの部分、普通はピアニッシモからだんだんクレシェンドしてそのまま第1主題に突入しますが、この演奏ではクレシェンドの後、なんとディミヌエンドして弱くなってから第1主題に入ります。
 他にも、同じく第1楽章の再現部の行進曲風のフレーズがやけに速かったり、第3楽章の冒頭の華麗なパッセージでかなり遅めのテンポを取っていたりと、いろいろと独特の演奏を聴かせてくれます。

 個人的にはけっこう面白いな、と思いますが、正統派の演奏ではないことは確かだと思います。



リーリャ・ジルベルシュテイン(ピアノ)
クラウディオ・アバド指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1991年)

 とても安定していて、何か「安全運転」といった印象を受ける演奏です。 スリリングな面白みには欠けますが、落ち着き払った雰囲気が逆にすごかったりします。

 第3楽章の華麗なフレーズなどでも、普通はテンポが前のめりになったりして勢いづくものですが、この人の場合常にテンポが一定といった雰囲気で、そこまで自分を抑えることができる所がすごいなあなんて思ったりします。

 そりゃあ、「協奏曲」ですから、オーケストラとの兼ね合いなどもあるのでしょうが、それにしても安定しすぎています。


ラン・ラン(ピアノ)
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団
(録音:2004年)

 骨太なピアノの音と、エネルギッシュなオーケストラが印象的な名演です。

 第1楽章はまず冒頭に驚かされます。異様なほど遅めのテンポで導入を演奏しており、これから何かが始まるぞ、とワクワクさせるような演出となっています。第1主題に突入すると、今度はピアノ線をぶち切らんばかりの低音強調で度肝を抜いてきますが、その後はまあオーソドックスに攻めています。
 再現部第2主題のホルンの美しいソロは必聴。ゆったりめのテンポでおおらかに歌い上げており、ロシアの大地が脳裏をよぎります。
 そしてコーダでは、一番最後の終始の和音を少し伸ばし気味にしているのが印象的でした。他のピアニストの演奏では、最後のハ短調の主和音は決然とスタッカートで終えるものですが、ラン・ランはおそらく意図的に四分音符くらいの長さにしていました。大変新鮮でよかったです。

 第2楽章は、中間部から冒頭の主題に戻る直前のフルートアンサンブルの恐るべき美しさが鳥肌もの。また、ピアノ独奏の程よいルバートが素晴らしいです。いやらしくない程度にテンポを揺らしており、見事なまでに歌い上げています。

 第3楽章は、オーケストラのエネルギッシュな好サポートが印象的です。コーダの盛り上がりも非常に感銘を受けましたが、ピアノが少しルバートをかけすぎかなあとも思いました。もう少しテンポに忠実な演奏の方が私は好みですね。


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