ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調 (プロコフィエフ)

【演奏者】【録音年代】レーベル
ウラディーミル・アシュケナージ1968年ロンドン
永野英樹1999年DENON
ウラディーミル・アシュケナージ1994年ロンドン
マウリツィオ・ポリーニ1971年グラモフォン
スヴャトスラフ・リヒテル1958年メロディア
マルタ・アルゲリチ1979年グラモフォン
ピョートル・ドミトリーエフ2002年ARTE NOVA





 [個人的ベストCD]

 おまけでプロコフィエフ収録  ○ウラディーミル・アシュケナージ(録音:1968年)

 リストの超絶技巧練習曲がメインのアルバムに、おまけのように収録されていたもの(もちろん、プロコフィエフのピアノソナタがメインに収録されているアルバムも発売されています)。
 全体を通して聴いてもっとも余韻が残るというか、「聴いてよかった」と思えるような演奏です。まあ、これはひとえに私がアシュケナージの音が好きだという個人的な理由によるところが大きいのかもしれませんが。

 全体的にどっしりとした重みのある演奏で、おすすめできます。

 第1楽章に関しては、テンポは若干速めとはいえ、それ以上の速さを感じさせる鋭いスピード感があり、世間一般のイメージとは異なる荒々しさが印象的な演奏。圧倒的な重量感も聴き所。
 第2楽章はアシュケナージ特有のあたたかみのある演奏が、この楽章のもともと持つ冷たさと奇妙に混ざり合って、いい意味で気色の悪いけったいな演奏となっています。
 第3楽章は、特にコーダが素晴らしい。他の追随を許さない猛烈な迫力があります。音量、勢い、重量感、どれをとっても バツグンで、興奮の極みに達してしまいます。



 [他のCD]

○永野英樹(録音:1999年)

非常にクリアな演奏で、何を弾いているのかが細部までよく分かるので聴いていて楽しい。
とてもあたたかみのある第2楽章や、コーダの迫力と打鍵の強さには目を見張るものがある第3楽章がオススメ。特に、第2楽章 の途中で現れるスケールは、他のピアニストにはない独特の味があってとても好きです。
ただ、第1楽章は立ち止まるような(次のフレーズに移る際に間を置く)箇所 がやけに多く、スピード感が命とも言えるようなフレーズがもどかしく感じられます。


○ウラディーミル・アシュケナージ(録音:1994年)
アシュケナージ57歳にして2度目の録音。老練のなせる技とでも言うべきか、さすがにこなれた感じのする演奏です。
第1楽章などは、26年前の演奏よりも明らかにうまくなっていて、スムーズに進んでいく。録音状態も格段によくなっていること もあってか、重量感も増しているように感じました。
しかし26年前の演奏に比べると、全体的に何かぐっとくるものがないようにも思われます。少々淡白な感じがしないでもないです。


○マウリツィオ・ポリーニ(録音:1971年)
颯爽とした演奏で、寸分の隙もないという印象を受ける完璧な演奏で、異様な緊張感を誇る。とにかく全体的にテンポが速い。

第1楽章の速さは個人的にあまり好きになれないが、これだけ速いと、この楽章のカオス的な雰囲気がさらに押し出されているようで非常に面白いです。
第2楽章は、ポリーニ特有の冷徹さを感じさせる演奏がツボにはまっています。
第3楽章は驚異的な演奏。恐ろしく速い(他のピアニストより20〜30秒速い)だけでなく、重量感もたっぷりで、超高速重量ブルドーザーが暴れまわっているよな印象を受けます。また、最初のメゾピアノからの絶妙のクレシェンドに非常に感銘を受けました。機械で操作したかのような、見事になだらかなクレシェンドが堪能できます。
コーダの恐るべき強靭な打鍵も一つの聴き所です。

あの伝説のショパン・エチュードと同時期の録音なので、ポリーニ全盛期の超人的な演奏が堪能できるといえるのではないでしょうか。
○スヴャトスラフ・リヒテル(録音:1958年6月29日)
モスクワ音楽院大ホールにおけるライブ録音。
アシュケナージの演奏と似た印象を受けました(「アシュケナージがリヒテルに似ている」と書くのが正しいのだろうけれど…)。
プロコフィエフと親交を持ち、この曲の初演も担当したリヒテルの演奏だから、多かれ少なかれ作曲者自身の 意図した曲作りに近いものであると思いながら聴くとなかなか面白いかもしれません。


○マルタ・アルゲリッチ(録音:1979年)
ぶっ飛び演奏ですね、これは。ミスタッチの多さはマンモス級です…これがライブ録音の醍醐味なのでしょうが。
特に第1楽章のミスタッチはひどい。しょっちゅう間違えています。
また、第3楽章はコーダに至って完全に破綻しており、投げやりな雰囲気すら漂っている。勢いがありゃあいいってもんじゃない、てな感じです。 もしかしたら、ミスタッチの多さやハチャメチャな演奏を全て含めて、「戦争」のカオス面を表現しようとしていたのかもしれない…。
しかし、イントネーションのつけ方などに時折ハッとさせられる表現があり、いろんな意味で楽しませてくれる一枚です。


○ピョートル・ドミトリーエフ(録音:2002年)
クリアかつ丁寧な演奏で、体的にテンポはゆったりめ。重量感に欠けるきらいがありますが、その分、高音のきらめくような美しい音色が印象的な演奏です。

おすすめは第1楽章。曖昧なところが皆無で、クリアすぎて冷徹な印象さえ受ける名演。展開部の、丁寧でありながら荒々しさも併せ持つバランスのよい演奏が非常に印象的です。
第3楽章はすこし丁寧すぎて、「precipitato(せきたてるように急速に)」の指示を無視したかのような印象を受けてしまう。コーダも爆発力に欠け、少し物足りなさを感じます。


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