プロコフィエフ
Sergey Prokofiev (1891-1953)

prokofiev


・ ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調 作品83
・ ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調 作品1
・ ピアノ・ソナタ第5番ハ長調 作品38
・ ピアノ協奏曲第3番ハ長調 作品26
・ ピアノ協奏曲第2番ト短調 作品16
・ トッカータ ハ長調 作品11


ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調 作品83

 私は以前、「プロコフィエフの音楽=不協和でとっつきにくい」という先入観のもと、プロコフィエフの音楽に対して言わば「聴かず嫌い」という感じでした。「聴いてみようかな」と思うこともあったのですが、何か踏ん切りがつかなくて、大学3年までプロコフィエフを自分から聞くことはなかったのです。
 そんな頃、アシュケナージのリスト「超絶技巧練習曲集」のアルバムを購入、そのCDにおまけのように収められていたのがこのピアノ・ソナタ第7番でした。もちろん、アシュケナージが弾くリストが聞きたくて購入したアルバムでしたが、せっかく入ってるんだからとりあえず聴いてみようということになり、この曲を聴きました。
 当然ながら、最初は全然受け付けませんでしたね(笑)。「何じゃ、この曲は〜!」という感じで、すぐにCDを止めてしまったのですが、なぜか数日後、また聴いてみようかなという気分になり、再びCDをセットしたが最後、このピアノソナタ第7番にハマることになりました。

 なぜこの音楽に異常なまでにハマってしまったのか、いまだにハマり続けているのか、よく分かりません(笑)。この曲は楽章ごとにコメントをしてみたいと思います。

 〜第1楽章 Allegro inquieto〜

 この曲にハマりだした頃、完全に第1楽章中毒とも言えるような症状になっていました。家に帰ってくるとこの曲を聴かずには いられなかったし、いつでもどこでもあのリズミカルで冷たさの漂うメロディーが頭の中で 流れつづけました。大学の試験時間中のような、余計なことを考えている暇のないような時ですら「タッタ タッタ  タッタ タッタター ター ター ター…」というメロディーが私を邪魔しました。

 タッタ タッタ…というメロディー
 タッタ タッタ…というメロディー


 そんなお騒がせなこの楽章の好きな所、聴き所を挙げたいと思います。
 まずは冒頭のファンファーレのようなフレーズの後に現れる、強烈なリズムで不協和音を叩きつける場面。

 叩きつける不協和音

この気持ち悪さが逆に気持ちよい。ストレスを発散してくれます。
 次は穏やかな第2主題。温かいのだか冷たいのだか分からない、どっちつかずな雰囲気の楽想が展開されます。 不思議な雰囲気を楽しむのがいいだろう。
 この第2主題を終えると再びアレグロの主題に戻るが、ここが個人的に最高の聴き所ですね。もう何が何だか分からない 狂気の音楽。しかしそれでいて、あの「タッタ タッタ…」という独特のリズムは常に失われずに生きていて、 音楽に躍動感を与えつづけています。これぞまさにプロコフィエフ!! 最高!!、と感嘆の声を上げずにはいられない。 ハチャメチャやっているくせに規律はきっちり守っている、頭のいい不良、みたいな感じですね。たまらん…(笑)
 そして最後の最後も気持ち悪く締められます。悪趣味にもほどがあるが、何度も言うように、この気持ち悪さが この曲の良さだと思います

 とにかく私を虜にしたこの楽章ですが、やはり私にとって一番の魅力は、リズミカルな音型と、それによってもたらされる 圧倒的なスピード感です。指自体はそれほど速い動きをしているとは思えませんが、そのくせぐいぐいと引き込まれる スピード感に溢れています。
 また、時たま顔を出す旋律っぽいフレーズも魅力。ほとんどが無調的であるがゆえに、そういった旋律らしきものがより いっそう魅力的に聴こえてきます。

 兎にも角にもハマってしまった楽章です。


 〜第2楽章 Andante caloroso〜

 温かいメロディーでリスナーを優しく包みこむような雰囲気を醸し出しておきながら、すぐに態度を翻して非情にも 冷たく突き放してくるという、粋な楽章。
 親しみやすい冒頭もいいですが、やはり聴き所はテンポが速くなってくる箇所以降だと思います。重厚な響きと、何よりも、 あの硬質で冷たい雰囲気がたまらない。


 〜第3楽章 Precipitato〜

 これもとてつもなく好きな楽章。猛烈突進型楽章です(ベタなネーミングだが…)。
 私はこの楽章にもやみつきになってしまい、一日一回は聴かなければ気がすまない状態に陥りました。しかし、この 楽章の場合、第1楽章のようにいつでもどこでも頭の中で流れ出す、という事態にはなりませんでした。
 というのも、この楽章はリズムが複雑で、頭の中では再現しにくかったからです。
 そもそも、8分の7拍子という変わったリズムであるうえに、なんと小節内部のリズムも小節ごとに変化する。 8分の7拍子の1小節中、2拍子+3拍子+2拍子となったり、2拍子+2拍子+3拍子となったりするんですよね。そのため、 頭の中でこの曲を演奏しようにも、冒頭から訳がわからなくなってしまいます(ただのリズム音痴であるという可能性も 十分にありますが…)。

 冒頭部分

 というわけで、私にとってこの第3楽章はプロの演奏を耳から聴くのみの曲であり、脳内演奏をしたとしても、 わかりやすいリズムに勝手に脳内改変されてしまうのがオチ。

 なにはともあれすばらしい楽章であり、最後まで本当に休むことなく、何もかも蹴散らかして突き進むという 感じです。
 個人的に最大の聴き所はコーダ。とてつもない迫力と勢いで押しまくり、これを聴くと誰しもが興奮が最高潮に 達してしまうだろう。他ではなかなか聴けない、超ド迫力コーダである。

 最高の充実感、満足感を与えてくれる曲です。



ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調 作品1

 1907年作曲のソナタをもとに1909年に改作。1911年出版。単一楽章から成っています。

 習作の域を出ないとか、プロコフィエフの個性が表れていないなどという解説で済ま されてしまいがちですが、非常にロマンティックな美しい曲で、私のお気に入りの一曲です。
 まず力強いイントロに惹かれてしまう。そして、次の第1主題のやるせない感じのメロディーが実に心地よく、 この主題が肉付けされて徐々に盛り上がる辺りはとてもロマン派的でかっこいい。

 最大の聴き所は、華麗なクライマックス。特に、譜例1のメロディーが何度か繰り返されて拡大され ていくうちに、どんどん増していく緊迫感がたまらない。音楽に飲み込まれてしまうようです。

 譜例1
 譜例1


 そして最後にイントロのフレーズが再び現れ、決然と締めくくられます。全体的に流れるような曲想だったこの 曲において、きっちりとけじめをつけるようなこの終わり方はとてもかっこよくて鳥肌が立ちました。

 一般的に認識されているプロコフィエフの作風とは少し異なる趣の曲で、ショパンやラ フマニノフ、初期スクリャービンのような音楽が好きな人には断然オススメできる作品のように思います。


ピアノ・ソナタ第5番ハ長調 作品38

 ピアノ・ソナタ第7番によってプロコフィエフの音楽の虜になった私は、早速いろんなプロコフィエフの曲を収集し始め、ピアノソナタ第7番の次に私の心を打ったのがこのピアノ・ソナタ第5番でした。
 とにかく透明感のある美しさが魅力的すぎる!ハ長調の美しさを改めて思い知らされた音楽です。

 特に第1楽章の第1主題。私はこの第1主題のメロディーにやみつきにな り、いつでもどこでも「タララララーン ラン ラン ラーン ラーン…」という冒頭からのメ ロディーがまたもや頭の中で流れ出す状態に陥ったことがありました。ソナタ第7番第1楽章と同じように…。

やみつき



ピアノ協奏曲第3番ハ長調 作品26

 私が大学時代に所属していたゼミに、ロシア音楽の大好きな先輩がいて、その方に焼いていただいたCD-Rを聞いたのがこの曲との出会いでした。プロコフィエフのピアノ協奏曲全曲をいただいたのですが、初めて聴いたときはこの第3番よりも第1番に心奪われましたが、何回か聴いているうちに第3番に惚れ込むようになりました。

 第1楽章の冒頭のきらめくように美しいフレーズがいきなりたまらないですね。また、第1楽章の第2主題は私のお気に入りのフレーズです(↓譜例)

第2主題でおます


 「バカにしてんのか?」とも言いたくなるおどけた感じのフレーズで、オーボエの響きがチャルメラみたいでふざけた雰囲気に一層拍車をかけていますが、しかしなぜだか心を捉えて離さない魅惑的なフレーズですね(笑)

 第2楽章も、主題のメロディーにはまりました。第5変奏の威圧的な雰囲気も好きです。

 第3楽章は、プロコフィエフ音楽の中でも特に惚れ込んだ楽章で、下の譜例の旋律とその展開がとてつもなく好きです。

いいねぇ


 非常にシンプルで親しみやすいメロディーでありながら、半音階的進行が挿入されていて、ピリっとしています。木管のみで奏されたあと、弦楽器とピアノで雄大に奏でられるところなんか、鳥肌モノです。



ピアノ協奏曲第2番ト短調 作品16

 何といっても、第4楽章の途中で現れる下の旋律が最高!

譜例

 もう、死ぬほど好きな旋律です。
 このメロディーをまずピアノが独奏で奏でます。まずここで感傷的な気分になってしまいます。次にピアノが伴奏に 回ってファゴットが旋律を担当し、それが終わるとついに最強最高の聴き所に突入。再びピアノが哀愁の旋律を 和音つきで演奏し始め、それが弦の分厚い伴奏等に支えられながら雄大に展開していきます。冗談抜きで泣きそうになっちゃいますね(笑)。「このままずっと聴いていたい」という気分になるのですが、この部分、意外にもすぐ終わってしまうので、聴くたびにもやっとしたものが心の中に残りますね(笑)



トッカータ ハ長調 作品11

 「クラシック界のヘヴィ・メタル」。そう呼びたくなるほど重々しく破壊力のある魅力的な曲です。バリバリの重低音を轟かせつつ、8ビートを刻みながらドカドカと突き進みます。
 この曲はマルタ・アルゲリチの演奏で聴きたいですね。私はアルゲリチはあまり好きではないのですが、この曲に関しては彼女以上の素晴らしい演奏を今のところ聴いたことがありません。




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