エチュード(練習曲)  (ショパン)

 [個人的ベストCD]

 アシュケナージでごんす ○ヴラディーミル・アシュケナージ(録音:1971,72年)

 ショパンのエチュード全集に関してはポリーニ版が一番で、アシュケナージ版は二番目の出来ばえという評価が下される ことが多いですが、この漠然とした比較はいまいちナンセンスな感じがします。というのも、演奏を聴いている限りでは、 二人のエチュードへのアプローチの仕方が異なり、どちらかといえば ポリーニはテクニックに、アシュケナージは情緒性にウェイトを置いているように考えられるからです。

 ショパンのエチュードはテクニック、情緒性ともに向上させることを目的としているため、ポリーニとアシュケナージのどちらの方が 良いというわけではありません。これは完全に好みの問題であり、漠然と二人の優劣を決めていることが私はどうも納得いかないんですよね。

 というわけで、私の場合は、完璧だがやや冷たさの漂うポリーニよりも、つねに温かみを失わないアシュケナージの演奏 の方が好みです。

 特に好きな演奏は、作品10−3,5,6,7,8,10,11,12、作品25−1,3,6,9,11,12、です。

 この中でも、作品25−1は珠玉の名演だと思います。テンポは遅めですが、それゆえにこの曲の持つやさしさ、温かさといったものが とてもよく表現されていて、本当に心が癒される演奏です。また、作品10−8の一番最後のアルペジオは美しすぎて 鳥肌が立ってしまいました。他の曲でも言えることですが、アシュケナージのアルペジオは絶品中の絶品で、この10−8の最後のアルペジオも その絶品の中の一つです。

 このエチュード集の唯一の弱点は作品10−4でしょうか。音がプツプツと切れていて、少し息苦しい演奏です。アシュケナージは 指が太すぎるため、弾きにくい音型があると言っていましたが、この曲の音型もその一つだったのでしょうか。



 [他のCD]

○マウリツィオ・ポリーニ (1972年録音)

上でも述べたように、完璧な演奏。曖昧なところが一切なく、どんな難所も何事もないかのようにさくさくと進みます。
とくによかったのは作品10−4。これだけ速い曲でありながら、一つ一つの打鍵がしっかりしていて重たいのです。アシュケナージ 等、他のピアニストは速くは弾けても1音1音が少し軽い印象を受けます。


○マレイ・ペライア (2001年録音)

わりと速めのテンポで飛ばしていますが、何がすごいかって、アシュケナージにしろポリーニにしろ、エチュード集を録音したのは 30歳頃だというのに、ペライアはなんと54歳でこのエチュード全集を録音している!

作品25−6以外は総じて素晴らしい演奏だと思います。私はけっこうペライアのファンなのですが、作品25−6だけはどうも、いただけない演奏でした。 本当にペライアが弾いてるの?と思ってしまうほど無造作な、荒い演奏。なんかヤケクソで弾いてるような印象すら 受けてしまいます。

しかしそれ以外は良くて、特に良いと思う演奏は、作品10−1,9,11,12、作品25−11,12。作品10−1は ラストを思いがけずPで、ふわっと終えるという粋な演奏で驚かされます。10−9はとても表情豊かで味のある演奏。


○アンドレイ・ガブリーロフ(1985−87年録音)

とにかく速い!特に作品10−1,4,5,12、作品25−6,11、などはまるで機械で早回ししているかのような 超特急で、まるで暴走機関車です。10−5,25−6などは速すぎて、指が少しもつれている感があるのが残念。
しかし、作品25−9,12などは名演。25−12は何もかも蹴散らしてしまうような圧倒的な迫力があって、この曲に非常に マッチしていると思います。

一つ謎なのは、作品25−5の最後のトリルの部分。普通はトリルだけのはずの箇所に、和音が一緒に演奏されている。 版の違いか何かなのでしょうか。