政体が何であるかに関係なく、統治者と被統治者の二分離は存続する。存続せざるをえないのが現実である以上、被統治者は統治者に統治する上での「正当性」「権威」「力量」を求めた。アウグストゥスが創設したローマ帝政では、「正当性」とは元老院と市民の承認であり、「権威」とはアウグストゥスの血を引くということであり、「力量」とは、ローマ皇帝にとっての二大責務である安全と食の保証をはじめとする、帝国運営上の諸事を遂行していくに適した能力を意味した。「権威」はもっていたにかかわらず、「力量」を欠くと判断されたがゆえに「正当性」を失ったことがネロの運命を決定したのである。そして、ネロ以降の皇帝たちも、右の三条件のすべてを満たすことを求めれた点では、ネロ以前の皇帝たちとまったく変わりはないのだった。それどころか、正当性と能力に加えてアウグストゥスの「血」に代わりうる別の権威まで創り出さねばならないのだから、問題はさらに深刻であった。
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