頭塔 (ずとう)



 奈良市内の近頃では人気スポットになった通称”ならまち”界隈から、真東へ直線に伸びる清水通りと呼ばれる細い路地があります。今では何の変哲もない住宅街の小径ですが、その昔は市内でも有数の商店街だった場所で、戦前には百軒以上の商家が軒を連ねてそれはそれは賑わいを見せていたようです。その名残は今西家書院や青田家住宅などの古い町家が道沿いに点在していることからも伺え、今でも数件の造り酒屋が醸造を続ける等、俗化されていない昔の奈良の風景が残されています。
 そんな清水通りをトントンと進み高畑集落に入る手前に、北側のこんもりとした丘の上に鬱蒼とした森が現れます。これは「頭塔」と呼ばれる遺跡で、古都に眠るちょっとミステリアスなスポットの一つ。

 

 南側に木戸があり普段は閂が掛けられているので中へは入れませんが、近くの建具店の御主人が管理人を務めており、予め連絡を取れば鍵を渡してくれるので、自由に見学が可能です。
 石段を登って正面に見える森の裏側へ廻り込むと、そこには段々状に積み上げられた石檀が現れます。幾何学的に整然と石が積まれたちょっと不思議な光景で、七段による四角錐台の外観はちょっとピラミッドを彷彿とさせます。大きさは32mX32mの方形で高さは20mほどあり、南面だけ地面が露出して森となっているので、古墳の様な趣も漂わせています。ピラミッドや古墳を思わせるこの遺跡は墳墓なのか?となりますが、どうやらそうでもないようです。

 

 

 この頭塔のある位置は東大寺の真南に当たり、東に新薬師寺、西に元興寺があり、またその中間点にもなっていて、周辺には春日大社や興福寺もある地勢的にとても重要なポイント。今は住宅が建て込んでいて想像もつきませんが嘗ては市内きっての繁華街だった場所でもあるので、ここに墳墓は置かないでしょう。いわゆる仏塔で、奈良時代の767年に東大寺の僧だった実忠が国の安泰を祈願して建立した土塔です。五重塔と同様に仏舎利を内部に納めたもので、最上段に瓦葺の屋根が付き相輪が延ばされていたと思われています。このあたりも五重塔に近いですね。東大寺には七重塔があったので、その原型なのかもしれません。

 

 頭塔という名もあるとおり、その昔は人の頭が埋められていたとの伝説もあった様です。”ずとう”は土塔の”どとう”が訛ったものとされていますが、サンスクリット語のストゥーパから来たものとも思われ、卒塔婆との連想から本当は誰かの墓なのかもしれませんね。
 この頭塔のもう一つの見所は、奇数段に石仏が配置されていること。1・3・5・7の各段4面に各11基ずつ計44基の石仏が置かれていたようで、現在発掘の後に確認されているのは28基、その内22基が数少ない奈良時代後期の貴重な石仏として国の重要文化財に指定されています。ちなみに遺跡本体も国の史跡に指定されています。

 

 



 「頭塔」
  〒630-8301 奈良県奈良市高畑町921
  電話番号 0742-27-9866 史跡頭塔保存顕彰会
  公開時間 AM9:00〜PM5:00 要予約