慈光院 (じこういん) 重要文化財



 斑鳩の里の東に隣接する大和小泉に、茶道石州流の開祖である片桐貞昌(石州)が建立した慈光院があります。石州は小泉城の主で、父の菩提を弔う為に、1663年(寛文3年)館の北側にこの慈光院を建造しました。方丈(書院)・本堂・茶室が次々と造られましたが、幾たびかの改造を経て現在は方丈と茶室が残されています。この慈光院は大和盆地の中央を流れる富雄川の流域の小高い丘の上に立ち、周りの平坦な田園地帯から見るとそこだけ緑の島が浮かんでいるように見えます。
 書院へのアプローチには変化があり巧みな構成が採られています。参道は西側から大きな刈り込み沿いの霰こぼしの緩い坂道を登り詰め、右手に表れる瓦葺の棟門を潜ります。その先のクランク状に折れ曲がった木立の切通しを進むと、今度は大きな茅葺の楼門が表れます。ここでようやく視界が開け書院の姿が現れます。

 

 書院は茅葺の入母屋造りで平瓦葺きの庇が付いており、東南に広縁を持っています。楼門を潜った際には書院の外観は見えますが右手は築山が遮断していて展望はありません。この楼門から延段が3方向に分かれているのですが、一番左の庫裏の玄関に向かいそこから廊下を経て書院内に入ると、ここで初めて東側に広く展望が開け、深い庇と背の低い水平の刈り込みによって額縁のように切り取られた、大和盆地を見下ろし遠く奈良の山並を望む、明るく開放的な借景式の庭園が広がります。ただし最近の乱開発により、先達の残した美しい景観が歪められつつあるのも事実です。
 書院の南側は、白砂に丸いサツキの刈り込みを幾つも並べた南庭。サツキの刈り込みの右手に松林を配し、観音堂を設けた築山を造って、東庭とのコントラストを図って調和を保たせています。この丸いサツキの刈り込みが松林前の大刈り込みから段々と連続的に東側に小さく変化し、東庭の背の低い水平の刈り込みに繋がります。書院は奥から13畳の「上之間」、8畳の「中之間」、そして4畳の「下之間」と直列に南庭に面して並び、「中之間」・「下之間」の北にそれぞれ6畳・3畳の座敷が続きます。普段でもこの広間には襖が嵌められていないので、総34畳の大広間から、美しい眺望を持つ庭と対峙することが出来ます。

 

 

 書院「上之間」の北側にには床と小書院が付けられています。この床の間の裏側に茶室「高林庵」が隠れてあります。この茶室へは書院東の広遠より一旦庭に出て、飛び石伝いに四つ目垣で仕切られた露地内に入ります。露地内には待合はありませんが、広縁がその役目を果たしています。高林庵の外観は、屋根は切妻の柿葺きで北東の角に躙口が切られ、さらにその上に連子窓が開けられ、そして躙口左手に刀掛けが作られて、次の間の南入り口に「高林庵」の扁額が掛けられています。

 

 茶室の内部は二畳台目に二畳の相伴席が付いた構成で、炉は台目切り。袖壁に橡の皮付き中柱を立て、点前座の奥に床を置く亭主床となっています。この亭主床は躙口から入った時に、真正面に袖壁と中柱、そしてその奥に床が見えるという、視覚的に奥行きの深い効果を狙ったもので、この高林庵以外でも西芳寺(苔寺)の湘南亭などにしか見られない数少ない実例として知られています。奥行き感という意味では、天井の竹の竿縁が床指しになっていることにも表れています。石州が好んだ手法と言われています。
 二畳の相伴席との間に二本溝の鴨居と敷居が作られているので、ここに襖を嵌めれば二畳台目の席としても、四畳半台目の席としても用いることが可能なユーティリティな構成です。中柱は特に石州が満足した木と言われる物で、ほとんど真っ直ぐな物が天井近くに強く曲がった珍しい形をしています。東面と北面いっぱいに連子窓が開けられているので、客座側は非常に明るく、点前側との強いコントラストを与えています。天井も野根板の平天井で圧迫感が無く、客に対して必要以上の緊張感を与えません。このように石州はあえて奇をてらわずに淡白な表現の中に、品格のある端正な茶室空間を作り上げていったのでしょう。

 

 書院の北西に高林庵と対比するように「閑茶室」があります。書院と同時に建てられたもので、三畳間に踏込床が付き、点前座の炉先の土壁に丸窓が開けられた構成で、天井は網代天井。内部は非常にほの暗く、高林庵の陽に対して陰の部を受け持っており、高林庵の寄付に使われたのではないかと推察されています。書院・高林庵・閑茶室いずれも国の重要文化財指定。

 

 書院のまわりに4つの蹲踞が点在しています。自然石をそのまま蹲踞にした物や、四隅を綺麗に面取りした物など。この蹲踞も全て国の重要文化財の指定を受けています。

 

 



 「慈光院」
   〒639-1042 奈良県大和郡山市小泉町865
   電話番号 0743-53-3004
   FAX番号 0743-53-3005
   拝観時間 AM9:00〜PM17:00
   拝観中止日 無休