宇土櫓 (うとやぐら) 重要文化財



 加藤清正が関ヶ原の戦いの翌年から築城を開始したと伝えられる熊本城も、西南の役によって天守閣や御殿等の大半の諸殿を悉く焼失してしまい、今に見る建造物群は昭和期になって復元されたものです。重量感溢れる堂々とした威容を見せる三層六階の大天守も内部は鉄筋コンクリートの博物館となっており、多少味気ない感があるのはやむを得ない所で、どうせだったら近年復元された本丸御殿のように伝統工法に法った木造建築で再現してほしかったですね。(昭和30年代に復元されたので今さら無茶なのですが)
 ところでこの熊本城、城造りの名人と呼ばれた清正公らしくその陣容は難攻不落の要塞と化していて、複雑な区割りによる強固な石垣と無数の堅牢な櫓群で防御を固めており、西郷軍も入城出来ずに田原坂へと遁走しています。その櫓群の幾つかは創建当時のままで残されており、石垣との造り出すコラボレーションは中々の美観で、よく時代劇の映画やドラマのロケにも登場していますね。有名なのが黒澤明監督の「影武者」や「乱」で、完全主義者の監督らしくやはり本物がお気に召したからでしょうか?

 

 一般に城郭の櫓には石垣の上に長く延びる「多聞櫓」と、角に立つ「隅櫓」の二種類があり、そのうち望楼のように建つのが隅櫓で、物見櫓も兼ねることから重層することが多いタイプ。この熊本城でも北西隅の石垣上に建つ「宇土櫓」はまさしくこのタイプで、三層五階の大型の櫓です。というかもう天守閣のような規模を見せており、それもそのはず現存する全国12の天守閣と比べても4番目の高さを誇り(19m)、宇土城を移築したものではないかと長年推察されていたほどで(現在は否定されている)、別名「三の天守」とも呼ばれていたそうです。
 屋根が入母屋造りの本瓦葺で、外壁は黒塗りの下見板張りに白漆喰を各層の上部に塗った、白黒のコントラストがとても映えた外観。この櫓を天守閣の様に見せているのは大きさだけでなくその意匠にもあり、一・二層には妻破風と同じ大きさの据破風を乗せ、三層には高欄付きの縁側を取り回した姿は他に類を見ない構成で、安定感のあるプロポーションで威風堂々とした姿を見せています。特に破風屋根をシンメトリックに整然と積み上げた姿は幾何学的であり、とてもモダンな印象を与えています。1607年(慶長12年)に完成しており、国の重要文化財に指定されています。

 

 内部は南側に付櫓が延ばされており、その付櫓の中は長い廊下が走ります。太い梁組で堅固に組み上げられていますが、ここで面白いのが宇土櫓に向かって下り坂となっていることで、敵の侵入を妨げる工夫の一つとか。外に向かって鉄砲狭間・矢狭間・石落とし等の様々な小窓が開けられており、戦国時代ならではの実践的な設備がここかしこに見られます。

 

  

 櫓本体の内部空間は、一階が東西9間南北8間の広さに6部屋が並んでその周囲を武者走りが取り巻き、この武者走りに付櫓の廊下が繋がる平面構成で、いずれも板の間が並ぶシンプルな造り。二階と三階は東西5間南北4間と一回り小さくなり、さらに四階と最上階の五階は三間四方となって、部屋も一室だけになります。
 五階は東西南北各方向に窓が開かれてとても眺望が良く、お隣の復元された大天守・小天守も同じ高さから良く見えます。

 

 



 「熊本城」
   〒860-0002 熊本県熊本市中央区本丸1-1
   電話番号 096-352-5900
   開園時間 4月〜10月 AM8:30〜PM5:30
          11月〜3月 AM8:30〜PM4:30
   休園日 12月29日〜31日