江埼・鍋島・クダコ島燈台退息所 (えさき・なべしま・クダコとうとうだいたいそくじょ) 登録有形文化財



 四国内の古民家や伝統産業施設を移築して保存公開している四国民家博物館(通称”四国村”)の中でも、最も異色な建物と言えるのが燈台の退息所群。退息所というのは燈台に付属して建てられた職員宿舎のことで、伝統産業施設といよりは近代化遺産なのですが、絶海の孤島に暮らす燈台守達の生活ぶりが窺える興味深い施設でもあり、過酷な自然環境の中で如何にしてサバイブしていくかという園内の各施設に共通する一貫したテーマに寄り添った建物でもあったりします。
 ところでこの四国村、急峻な屋島の山麓を切り開いて造られた為に全国の数ある民家園の中でも最もハードな行程を持っており、谷を渡り竹藪を掻き分けてようやく辿り着いた眺望の良い山上に、燈台と退息所群が待ち構えています。
 ちなみにこの燈台は四国ではなく広島県の毒ガスと兎で有名な大久野島にあったもので、1894年(明治27年)5月に点燈されたもの。

 

 この旧大久野島燈台から東へ3つの退息所が並びます。まず最初に現れるのが江埼燈台退息所。実はこれも四国では無く淡路島にあったもので、1996年(平成8年)に移築されています。
 江埼燈台は明治の初め1871年(明治4年)に明石海峡を望む旧北淡町岩屋地区に、神戸港開港に備えて設置された日本では8番目に古い洋式燈台にあたります。設計は「日本の燈台の父」と呼ばれるヘンリー・ブラントン。この退息所も同時に建造されたもので、100年以上も苦役に耐えていましたが、1995年(平成7年)の阪神淡路大震災の震源地だったこともあって甚大な被害を受けてしまい、燈台本体はそのまま修理されて当地で今も活躍中ですが退息所のほうは部材を四国村に移すことになり、かつての在りし日の姿が復元されたいうわけです。
 外観は屋根が寄棟造の桟瓦葺で、石造による洋風建築ですが、ベランダやバルコニー等が一切無いごくシンプルなスタイルです。国の登録有形文化財指定。

 

 この退息所は外国人の燈台守用に造られているので内部も完全に洋式化されており、洋間にマントルピースが設置された部屋が並びます。どの部屋も外観同様にシンプルな造り。
 天井裏の屋根には木造のトラス構造が採用されているようで、ブラントンは建築家というよりは土木技術者でしたから強固な構造体で質実剛健に組み上げたようです。

  

 次に現れるのが鍋島燈台退息所。鍋島は現在は瀬戸大橋の児島坂出ルートの中間地点にある与島に隣接する小さな無人島で、1872年(明治5年)に神戸-長崎間の航路開設に向けてやはりブラントンによって燈台が建造されました。
 この退息所は翌年の1873年に建てられたもので、1955年(昭和30年)頃まで本来の宿舎として使われていましたが、その後海上保安庁の通信施設に転用され、1998年(平成10年)に移築されています。
 外観は江埼灯台退息所と同様の屋根が寄棟造の桟瓦葺で、石造による洋風建築ですが、江埼灯台のに比べて一回り大きくなり(江埼灯台退息所は建築面積113uに対しこちらは156u)、さらに付属施設が周囲に取り付きます。特に東西北の隅3ヶ所に雨水を溜める大きな貯水槽があり、水の確保が一番大変だったことがわかります。(瀬戸内はあまり雨が降らない)

 

 外観の一番の特徴は正面全面にトスカナ式の列柱が6本並ぶ点で、屋根の軒下を吹き放しとしたベランダとなり、同時期に数多く造られたコロニアル洋風建築と同形式のものになります。建造年が2年しか違いませんが、江埼燈台のと比較して居住性が進んでいるようです。
 内部は江埼燈台のと同様にマントルピースが設置されたシンプルな意匠の洋間が並びますが、一部畳敷きの部屋もあります。付属施設も含めて国の登録有形文化財指定。

 

 

 さらに進むと現れるのが、クダコ島燈台退息所。クダコ島は愛媛県松山市沖に浮かぶ小島で、1903年(明治36年)に燈台が建造されました。退息所も同時期に建てられており、その後燈台が無人化することになって不要となった為に、1998年(平成10年)に移築されています。
 外観は屋根が寄棟造の桟瓦葺で、レンガ造のモルタル塗りとなり、建築面積も107uと3つの退息所の中では一番狭くなります。最も簡素な造りで庇も無く、一見すると住居というよりは倉庫ぐらいにしか見えません。

 

 この建物の最大の特徴は内部が畳敷きの部屋が並ぶ和風建築となっていることで、前面に土間が走り押入れのある6畳間が並ぶ構成となっており、背面には竈付きの台所が並びます。先の二つの退息所は外国人の燈台守向けなのに対して、ここのは当初から日本人燈台守向けに造られており、明治初期の外国人が中心だった燈台の管理業務が、時代が下がることによって日本人で執り行うことになったことの表れなのでしょう。
 これも国の登録有形文化財指定。

  

 隣には別棟で風呂場があります。中は五右衛門風呂。

 



 「四国民家博物館」
   〒761-0112 香川県高松市屋島中町91
   電話番号 087-843-3111
   開園時間 4月〜10月 AM8:30〜PM5:00
         11月〜3月 AM8:30〜PM4:30