国立天文台 (こくりつてんもんだい)



 天文台は大抵辺鄙な場所にあるもので、人里離れた山の天辺にポツンとあるのが相場。空気が澄み切っているのはもとより、周りがネオンサインの洪水では天体観測はできません。国内の天文台も概ね交通の便が悪い僻地にあります。その昔は東京天文台と名乗っていた国立天文台三鷹本部も、多摩地区の雑木林と田畑の広がるプチ田舎にあるので、鉄道は遠く道路は渋滞するので公共交通は本当に不便。周囲も多磨霊園・調布飛行場・野川公園・国際基督教大学・神代植物公園に包囲されて人家は本当に少なく、女性の夜の一人歩きはとても危なそうなちょっとうら寂しい環境で、今はまだしもここに引っ越してきた大正期は本当に僻地だったのでしょうね。
 国立天文台となってからはキャンパス内は常時公開されており、正門を入ってすぐ右手の守衛室で受付をするとガイドが貰えるので、そのMAPでキャンパス内の色々な施設をオリエンテーリングしながら巡ります。

 

 この国立天文台三鷹本部は、前身が東京都港区の麻布にあった東京大学東京天文台で、1924年(大正13年)に当地へ引っ越しをしています。明治期の麻布界隈はまだ天体観測も可能だったのでしょうけれど、さすがに都市化が進んでスモッグも発生してシャレにならなくなったのでしょう、狸や狐が跳梁跋扈する三鷹の土地に移ってきたわけです。
 立地の面でも、南西側を国分寺崖線が走っている為に西側と南側は断崖絶壁で高台となるので天体観測にはとても有利。武蔵野の雑木林を切り開いた広大なキャンパスに、観測施設がポツンポツンと点在しており、実際に今でも稼働中です。
 ちなみに2004年(平成16年)4月1日に法人化され、「大学共同利用機関法人自然科学研究機構」という長ったらしい名前の組織に変更されています。

 

 ルートに従って進むと最初に御目見えするのが、第一赤道儀室。可愛らしい小さなドーム型の建物で、太陽黒点活動の観測を行う施設です。1924年(大正13年)に完成したキャンパス内最古の建物で、内部には1927年(昭和2年)に購入された口径20pカールツァイス製の望遠鏡が搭載されています。
 土日祝日の晴天の日中では実際に観測が行われており、研究員の丁寧な解説付きで、実際にドームをグルグルと回転させる実演もあったりします。

 

 この第一赤道儀室の正面から100m程進んだ場所にあるのが、大赤道儀室。第一赤道儀室から遅れること2年の1926年(大正15年)に完成した建物で、こちらもドーム型ですが規模はグッと大きくなり、内部にも日本最大口径65cmを誇る巨大なカールツァイス製屈折望遠鏡が陣取っています。その威容はまるで高射砲の砲台のよう。既に引退しているそうですが、今でも観測は可能だとか。
 ここでは「天文台歴史館」としてガリレオの望遠鏡(レプリカ)や観測写真をパネルで紹介もされており、北側にある展示室でも観測装置の模型やすばる望遠鏡の映像等が展示されています。

 

 ここからさらに南へ雑木林の中の園路を矩折りに進むと、頭にドームを乗せた太陽塔望遠鏡が登場。1930年(昭和5年)に完成した地上五階建てのビルに小さなドームが乗った建物ですが、このビル自体が望遠鏡の筒になっており、途中のレンズによって地下の大暗室に太陽光を放ち、そのスペクトルを観測する大がかりな施設です。
 なんでもドイツのポツダムにあった天体物理観測所のアインシュタイン塔と同じ構造だとかで、別名「アインシュタイン塔」とも呼ばれています。一見すると何の施設か判らないキャンパス内でも最もユニークな建物ですが、機能性を重視した姿がかえって一種独特の雰囲気を醸し出しており、周囲の雑木林との対比も含めて得難い魅力を放っています。ここは内部には入れません。
 ちなみに第一赤道儀室・大赤道儀室・太陽塔望遠鏡は、国登録有形文化財の指定を受けています。

 

 この他にも、レプソルド子午儀室・ゴーチェ子午環・自動光電子午環・図書庫などの施設が点在。自動光電子午環以外はいずれも大正末期から昭和初期のレトロ建築で、ここでも武蔵野の雑木林が広がる周囲の風景と相まって独特の風情を醸し出しています。
 人工の光を避けるために森をそのまま残しているわけですが、あまり手入れがされていないのか荒れ気味で、夏場になると蜂や蛇がウジャウジャ出没し、なんと雉や狸も御目見えするとか。貴重な武蔵野の森が残されているというわけです。

 

 

 以前はこの森の中に、研究者・職員用の戦前に建てられた木造平屋建ての官舎が点在していましたが、今は取り壊されて更地になっています。最も古く規模の大きな官舎だった天文台所長官舎を移築して、内部に絵本や遊具を設置した「星と森と絵本の家」を三鷹市が運営しており、週末には親子連れで賑わっているようですね。餅つきや凧揚げにどんど焼なども開催していて、地域コミュニケーションの場としても活用されているようです。

 

  

 天文台の周囲は天文台内の雑木林の延長のような田畑と森が織り成す田園地帯で、竹林や水車小屋もあったりします。ホタルも生息しており、本当にここは東京か?というほど長閑でカントリーな風景。

  

 

 近所でお薦めの店は、天文台正門から500m程の住宅街にある蕎麦屋の「吉田屋玄庵」。近頃多い団塊世代の脱サラで始めたお店ですが、コンクリート打ちっ放しの小洒落た内装で、低くモダンジャズなぞも流れてカフェバーみたいです。石臼自家製粉の手打ちの蕎麦はコシが強くなかなか美味。特に冬場の蔵王産の鴨を使った鴨ざるがお薦めでしょう。日本酒も充実しており、常時7種類ほど揃えています。「八海山」「立山」「銀盤」等。とてもわかりにくい場所にありますが・・・。

 

 



 「国立天文台三鷹本部」
   〒181-8588 東京都三鷹市大沢2-21-1
   電話番号 0422-34-3688
   公開時間 AM10:00〜PM5:00
   休館日 12月28日〜1月4日

 「三鷹市星と森と絵本の家」
   〒181-0015 東京都三鷹市大沢2-21-3
   電話番号 0422-39-3401
   開館時間 AM10:00〜PM5:00
   休館日 火曜日 年末年始

 「吉田屋玄庵」
   〒181-0014 東京都三鷹市野崎4-7-14
   電話番号 0422-32-2050
   営業時間 AM11:00〜PM4:00 土日祝AM11:00〜PM6:00
   休業日 水曜日 第二木曜日