太山寺 (たいざんじ) 国宝



 神戸は六甲山を越えると途端にド田舎になります。海側の洗練されたハイセンスでセレビリティな街並とは似ても似つかない、ほっかむりのオバちゃん達が農作業の合間にギャハハと高笑いで憩う、正統的な美しい日本の農村が残されています。兵庫県は起伏の激しい地形を成していて、神戸も鰻のように海にへばり付く極々狭い平地に栄えた都市ですが、神戸近郊は海のうねりのような複雑な地形を持っており、その谷合に農村や牧場や温泉などが点在しています。中世には西国浄土の思想もあって、京の都より西方になるこの播磨地方に、密教寺院がそんな谷合に隠れるように開かれました。加古川に鶴林寺、姫路に円教寺、小野に浄土寺、加西に一乗寺、社に朝光寺と幾多もの名刹・古刹が開かれ、神戸市の西区にも太山寺が開かれました。
 市営地下鉄の伊川谷駅からバスで7分ほど、山に切り開かれた静かな谷間に太山寺はあります。あまり知られていないせいか土日でも人影は疎らですが、国宝クラスの文化財の宝庫で、仏像・絵画・書跡・建造物等に国宝1件、国の重要文化財27件を数える優れた収蔵品があります。バス停は参道の門前に止まり、瓦屋根の仁王門が程なく見えます。この仁王門は元々は二階建ての大規模な門だったものを、移築の際に上層部を取っ払って単層の八脚門に改造したもので、移築前の軒組物の一部が軒下に置かれています。この組物を見ると移築前はかなりスケールだったことが偲ばれます。国の重要文化財指定。

 

 太山寺は、藤原鎌足の子の定恵が開山し、孫の宇合が916年(霊亀2年)に建立した天台宗の寺院で、中世には41もの塔頭を数える絶大な勢力を誇りましたが、栄枯趨勢により今は5箇所のみ。仁王門からは本坊まではおそらく塔頭跡らしき長閑な田畑の間を進み、築地塀が続く緩やかな坂道の参道を三重塔を見ながら進むと、本坊の小振りな中門が現れてきます。中門越しには本堂も見えています。

 

 中門奥の正面に見えているのが本堂で、丹塗りの大規模な仏堂です。建立は鎌倉期の栄仁年間(1293年~1299年)と想定され、和様の七間仏堂としては最古の建物で、国宝に指定されています。外観は屋根は銅版葺きで入母屋造りで、大きさは正面7間側面6間、傾斜地に建てられている為に前方の床下のみ亀腹基壇が盛り上げられています。
 背面以外の三面に広縁を廻し高欄を付けてあり、柱は全て丸柱、正面の柱間は蔀戸を嵌めた端正で流麗な意匠で、屋根の反り方の美しさも含めて、中世の貴族の寝殿を彷彿とさせる外観を持っています。斗栱には出三斗が用いられ、和様に大仏様が取りこまれた新和様の代表的な仏堂です。

 

 

 内部は奥行6間を後3間の正堂と前3間の礼堂とに分かれ、正堂には5間X2間の内陣に1間の脇陣と後陣を並べ、礼堂は外陣とし、その間に菱格子と格子戸を嵌めて結界としています。外陣は外観同様丹塗りで統一され、天井は虹梁を渡さずに折上小組格天井ですっきり見せて、太い円柱を林立させた、古代の仏堂を思わせる雄大で伸びやかな空間を作り出しています。

 

 本堂の西側の一段低くなった場所に三重塔が建てられています。本堂と同じく丹塗りの外観で、1688年(貞享5年)の建立。県の重要文化財に指定されています。

 



 「太山寺」
    〒651-0021 兵庫県神戸市西区伊川谷町前開224
    電話番号 078-976-6658
    拝観時間 3月~11月 AM8:30~PM5:00
           12月~2月 AM8:30~PM4:30
    拝観休止日 無休