瀬戸田 (せとだ)



 しまなみ海道を尾道側から渡って3番目の島が生口島で、この島までが広島県側となります。この生口島は島の大半が旧瀬戸田町(現尾道市に編入)なのですが、町の中心部はしまなみ海道からは思いっきり外れているので、今でも昔ながらの船の方が全然便利です。陸地側の三原港からは本数も多いし、高速船に乗って30分ほどで着きますしね。しまなみ海道はバス便もあまりよいとは言えないし、観光客も素通りしちゃうので地元にはそれほど恩恵ないのでは?
 でこの瀬戸田、中世より潮待ち港として栄えた古い港町で、瀬戸内海のちょうどド真ん中に当たりますし、気候は温暖で柑橘類の生産が全国有数の規模を誇り、なによりも青い海を背景にミカン畑が広がる絵に描いた様な瀬戸内の風景が見られるのが一番のセールスポイント。高台にある潮音山公園に上がれば、素晴らしいパノラマビューが待っています。

 

 

 瀬戸田港はお隣の高根島と海峡のように挟まれた場所にあり、東西南北どの方向にも船を出し易い地の利の良さが繁栄のポイントだったようですね。港周辺には重厚な甍を乗せた浜屋敷と呼ばれる豪商の御屋敷も点在しています。映画のロケにも使われているようで、船着場前の木造二階建ての住之江旅館は、1981年制作の大林宣彦監督「転校生」にも登場します。もっと古いと市川右太衛門の旗本退屈男シリーズ「謎の七色御殿」のロケ地にもなったとか。古過ぎますけど。

 

 

 この船着場から真直ぐ東へ「しおまち商店街」が一直線に伸びます。商店街というよりはこの先の耕三寺参拝客用の土産物屋街ですが、特に地元特産の柑橘類方面が多いようで、シフォンケーキやゼリーなど色々と。
 また飲食店も多く並び、タコやアナゴが名物。耕三寺門前の「万作」はアナゴがウリで、蒲焼の穴子一匹まるまるのっけた穴子丼は美味。付け合わせの酢の物にレモン、デザートにはネーブルとここでも柑橘類攻勢です。

 

 

 御近所には当地出身の平山郁夫画伯のコレクションを集めた「平山郁夫美術館」もあります。そういえばこの瀬戸田町は「島ごとミュージアム」というパブリックアートを展開していたそうで、街中に様々なオブジェが点在しています。しおまち商店街の中程には、地元の小中学校生達が彫った石像群も展示されています。

 

 

 さてこの瀬戸田で一番の観光スポットは、しおまち商店街奥に鎮座する耕三寺。大阪で一旗上げた成り金実業家がその巨万の富を注ぎ込んで造り上げた壮麗な寺院で、全国各地の有名な古建築のコピーをさらにキッチュにデフォルメして出来た伽藍が構成されています。浄土真宗本願寺派(西本願寺系)のれっきとした寺院なのですが、お寺というよりはなんだ怪しいか昭和レトロチックなテーマパークの様な施設なので、お参りに来るというよりは東武ワールドスクウェアにでも来た様な気分になるところです。
 まず山門は京都御所紫宸殿の御門を、法宝蔵は四天王寺講堂を、至心殿・信楽殿は法界寺阿弥陀堂を、八角円堂は興福寺北円堂のそれぞれコピー。いずれも国登録有形文化財指定。

 

 

 伽藍は山門から最奥の本堂までを軸にして左右対称に配置されており、特にその中心軸に当たる建築物には過剰なまでの意匠が凝らしています。
 出入り口の礼拝堂を抜けると最初に御目見えするのが五重塔。国宝にもなっている室生寺のコピーですが、平安期の優美で端正な室生寺とは違って、組物の彩色や柱の金色の仏画などとにかく派出。

  

 この五重塔の奥の石段上に立ちはだかるのが孝養門。日光東照宮陽明門のコピーですが、その陽明門も真っ青の装飾過剰な建築物で、観音様やら弁天様などの夥しい数の仏像がこれでもかと彫り込まれており、側面には涅槃図などの仏画も描かれたウルトラゴージャスな意匠です。なんだかホストクラブにも通じる様な・・・。
 伽藍の建物は国登録有形文化財に指定されているものが多いのですが(15件)、五重塔とこの孝養門は過剰すぎるせいか指定されていません。

 

 

 孝養門の奥に見えるのが本堂。宇治の平等院鳳凰堂のコピーですが、軒下にはその鳳凰の彫刻が乱舞しています。その姿は鳳凰というよりはアニメチックで、手塚治虫の火の鳥みたい。

 

 伽藍の奥にはこれまた不思議な空間の「未来心の丘」があります。彫刻家の杭谷一東氏が設計製作した大理石庭園で、5000uの敷地に3000tの大理石によるモニュメントが敷き詰められています。眺望の良いとても開けた場所にあり、周囲の島々も一望出来ますが、まるで新興宗教の本部にでも来た様な気分。浄土真宗のお寺なんですけどね。

 

 



 「耕三寺」
  〒722-2411 広島県尾道市瀬戸田町553-2
  電話番号 0845-27-0800
  拝観時間 AM9:00〜PM5:00 年中無休