青柳寺庫裡 (せいりゅうじくり) 神奈川県指定文化財



 JR町田駅南口そばのラブホが密集するブロックを抜けて5分程のところに、青柳寺という日蓮宗の寺院があります。戦国期の天正年間に創建された由来を持ち、明治期には武相困民党の決起場所でもあったそうで、境内は中々に広く立派な本堂や庫裡も備わった由緒のあるお寺です。ところでここに江戸中期に建造された古い庫裡があったのですが、お寺のほうで新しく建て替えられることになり、県の文化財の指定も受けていることから文化財保護ということもあって、1998年(平成十年)に同じ相模原市内の自然の村公園内に移築復元されています。

 

 この青柳寺庫裡が建造されたのは、寺に伝わる過去帳によると第八世日然(享保十年没)の条に「客殿造作、番信堂、庫裡、門造立之」とあり、江戸中期の元禄年間(1688年〜1704年)の頃と見られています。外観が茅葺屋根の平屋建てで、一見するとよくある直屋造りの農家建築かと見紛えてしまいますが、よく見ると屋根の形状が少し変わっており、向かって左手の妻部が入母屋造りなのに対して右手は寄棟造りと左右非対称。これはこの建物の正面が一般の農家建築とは異なり妻側にあるせいで、妻側に大戸口が開けられているのもその為です。現在でも本堂の左手に新しい庫裡があり、この古い庫裡も本堂との渡り廊下用の出入り口が側面の木戸横に開けられていて、ここより入母屋造り屋根側が表側となり境内の参拝者にもオープンな空間とされ、寄棟造り屋根側は裏側となって参拝者には見えないクローズされた空間となります。このような差異が移築されるとちょっと分かり難くなりますね。

 

 

 大きさは桁行十間半奥行五間と大型の木造住宅建築で、例えば県内の重文農家建築と比較してみると、川崎市の日本民家園内に移築された伊藤家住宅・北村家住宅よりも大きいです。全体の構造や平面はその二つの民家と比較的似ており、周囲に低い柱を並べて軒を支える四方下屋造りと共通の構造を持ち、内部の平面も半分を広い土間空間とし、その土間に板の間の「ヒロマ」が取り付き奥に座敷が並ぶ構成で、ご近所で建築年代も近い事から、この地方特有の農家建築に寺院の庫裡の要素が導入された建物ということになのでしょう。

 

 

 土間空間は天井板のない吹き抜けた空間で、野太い曲がりくねった自然木を巧みに組み合わせた力強い梁組が見られます。特に妻部の高い入母屋屋根を支える為に、寺院建築で見られる束と貫を積み上げた和小屋の工法が採用されている点が特徴で、これは伊藤家住宅や北村家住宅には見られません。

 

 「ヒロマ」の奥に並ぶ座敷部は簡素ながら床の間に付書院や透かし欄間もある書院造の部屋で、閉鎖的な土間とは対照的な障子戸が並ぶ明るく開放的な空間。庫裡は客殿も兼ねている場合が多いので、接客用として使われていたのでしょう。神奈川県指定文化財。

 



 「相模川自然の村公園」
  〒252-0135 神奈川県相模原市緑区大島3853-8
  電話番号 042-760-1130
  開園時間 AM9:30〜PM4:30 (7・8月はAM9:30〜PM5:30)
  休園日 12月28日〜1月3日