倉の館 三角邸 (くらのやかた さんかくてい) 登録有形文化財
本州側の児島駅からJR瀬戸大橋線に乗って海を渡ると四国側のまず坂出市に上陸しますが、すぐ隣町の宇多津町へと侵入し、三差路のように分岐して坂出駅と宇多津駅の二方向へと向かいます。この分岐地点あたりが宇多津町の中心部で、宇多津駅自体は隣町の丸亀市に近く、町役場も分岐点のすぐそばにあります。
宇多津は古くから瀬戸内の海運の要所として発展した湊町で、対岸の児島同様に塩田開発でも成功し、町は小さいけれど財政的には豊かなことからか平成の市町村合併にも遭わずにすみ、瀬戸内の温暖な気候にも恵まれて暮らしやすそうな所ではあります。駅前は元が塩田とかで再開発されまくっていますが、町役場のある旧市街は旧高松街道沿いに明治期に建てられた町家が100軒以上も建ち並び、さらに神社仏閣が密集して路地が形成された昔ながらの趣のある街並みが残されています。
中には江戸期にまで遡る町家も数軒残るこの街並みで、毎春桃の節句の時期に町家で雛飾りを並べる「うたづの町家とおひなさん」が開催されており、いつもは静かな街並みが一時沢山の観光客で賑わいを見せていたりします。そのイベントのメイン会場の一つとなっているのが、「倉の館
三角邸」と呼ばれる町家。他の町家が格子窓を並べた京風の佇まいを見せるのに対して、ここはとんがり屋根の洋館も備えたちょっと異色の物件。
正式名称は「旧堺家住宅」。地元の肥料商だった堺芳太郎氏の別邸として建てられたもので、建築年代は昭和初期とのこと。接客施設として造られたせいか外塀もどこか遊興施設のような趣があり、裏側の腰板には網代も張られてちょっと艶っぽい風情です。
その後持ち主が変わり、1996年(平成8年)に公有化されて、現在は町の貸会場として使用中。「倉の館 三角邸」の名称は、”倉の前”という地名と洋館部の三角屋根から付けられたものだとか。
敷地の東側に門を構え、その奥に木造二階建ての主屋が建てられています。屋根が入母屋造の桟瓦葺で、面積は157u(47.5坪)。門や外塀と共に国の登録有形文化財指定。
戦前に数多く造られた典型的な近代和風建築で、各地から集められた銘木によって精巧に組み上げられ、凝った細工が散りばめられた、豪商の建築道楽で完成した住宅建築です。
黒壇や黒部杉が使われ二重格天井を持つ玄関部も見所の一つですが、その奥に続く12.5畳と10畳による主室と次の間は最も意匠を凝らした空間で、鉄刀木を嵌めた床柱や床框に45oの厚みがある欅の無垢材による床板、さらに桐や屋久杉で絵柄を彫り込んだ書院窓の透かし彫り等、豪勢な素材と造作が見られます。
また廊下との障子には、檜に漆塗りの桟が使われ、次の間との欄間にも屋久杉を用いた竹の模様による透かし彫りもあり、細部にわたって質の高い接客空間が造り出されています。
平面ではコの字型になり、主室のある部分と洋館のある部分との間を、廊下と8畳の茶室で繋ぎます。この茶室は元々は家主の書斎だった部屋で、公有化された後に改修されたもの。槐(えんじゅ)の床柱や網代張りの雪見障子など数寄屋風の意匠が入るので、茶室への転用に違和感はありません。
この茶室前の中庭には飛び石に石灯籠や丸い球状の手水もあり、露地風の佇まい。
まるで教会の鐘楼のような洋館は主屋と同時期に建てられたもので、木造二階建てのモルタル塗。屋根が平瓦菱葺なのですが、以前は天然スレート葺だったそうです。
戦前の富裕層の邸宅はたいてい和館と洋館を併設して構えたので、ここでもそのパターンなのでしょう。外観がおとぎ話にでも出てきそうなメルヘンティックな塔屋なので、家主の家族の好みなのかもしれませんね。
内部は一階二階共に一室のみとなり、白漆喰壁にステンドグラスが並ぶやはり礼拝堂のような空間です。
「倉の館 三角邸」
〒769-0200 香川県綾歌郡宇多津町2147-3
電話番号 0877-49-8007 (宇多津町教育委員会)
見学は要予約 毎年3月上旬の「うたづの町家とおひなさん」で内部公開