齋藤家別邸 (さいとうけべってい)



 新潟市内の中心地である古町界隈からチョイと海寄りに外れた場所に、市内きっての御屋敷街である西大畑町があります。このあたりは日本海に臨む砂丘地で、松林越しに潮風に吹かれながら海浜の風景を愉しむ為の瀟洒な邸宅が軒を並べていた所。旧県副知事公舎(野坂昭如旧邸)や旧市長公舎、それに旧日銀新潟支店長役宅といった上級役人の御屋敷もあったりします。(ちなみに全て現存し公開中)
 港町でもあるので戦前に建てられた洋館や教会も点在し、異国情緒も加味された独特の街並みが見られたりしますが、その風光明媚なロケーションを活かしてということか高級料亭もあり、国登録有形文化財にも指定されている行形亭(いきなりや)が今でも営業中。でこの行形亭の隣に堀田楼という名の料亭も営業していたのですが、大正期に地元の豪商である齋藤家がこの敷地を買収して別邸を構えており、現在は新潟市が所有して公開しています。
 ちなみに門前の通りを挟んで反対側にはやはり地元の豪農である伊藤家の別邸もあり、双方ともに白壁の塀が続くことから、別名「白壁通り」なんて呼ばれていたりします。

 

 ここに別邸を構えた齋藤家は、明治期に海運業や金融業等で資産を築いた豪商で、新潟三大財閥の一つに数えられた名家でした。本邸は市内中心部の東堀通7丁目(現NTTの北側)にありましたが、現在は取り壊されて接客部の燕喜館のみ白山公園内に移築されています。この本邸を造ったのが三代目当主齋藤喜十郎で、その息子の四代目喜十郎が西大畑町に別邸を構えたというわけです。ちなみに齋藤家は当主が代々喜十郎を命名。
 この四代目は衆議院議員や貴族院議員も務めた政治家で、別邸を造営したのはその衆議院議員在職中の1918年(大正7年)のこと。この頃は絶頂期だったのでしょうね、4500uにも及ぶ敷地に木造二階建て入母屋造の主屋と池泉回遊式の庭園を造り、奥には本格的なお茶室まで造ってあります。そういえば同じ日本海側で北前船の寄港地でもある酒田の大富豪本間家の別邸と雰囲気が似ていますね。

 

 主屋は敷地の南側の白壁通り沿いに建てられており、庭園はその北側に広がります。これは夏向けの施設ということから陽射しを避ける為で、開口部も広く取られて風通しの良い空間となっています。東西に長く雁行型に配置されているのも同様の理由です。
 その主屋の中心となるのは10畳間が並ぶ大広間で、庭園の眺めを第一に考えてか柱の数を極力減らし、戸板も全て戸袋に収納出来るように一本引きにして、パノラマビューの広い開口部を造り出しています。床まわりの意匠は正統的な書院造のもので、欄間には桂離宮新御殿の卍崩しの図案も見られます。

 

 

 この一階の大広間の二階も同様に大広間となり、こちらも一階同様に10畳間が二間並ぶ構成ですが、床まわりは数寄屋風の意匠と変わり、凝った細工の狆潜りも見られます。屋久杉一枚板の竿縁天井や、入側の杉皮化粧屋根裏天井とか、残月床にかりん・橡をあしらった床など見所は色々とありますが、やはり一番のウリは庭園の眺望で、俯瞰して見る風景は一階で見るよりもスケール感が広がって感銘深いものがあります。

 

 

  

 一階の大広間の西側には4つの座敷が並びますが、最奥の西の間は繊細な数寄屋風の意匠で、庭の眺めも竹林と変わり、それに合わせてか欄間の透かし彫りも竹林となります。スケールの大きな大広間の空間とコントラストをつけているのでしょうね。

 

 

 この西の間で一番の見所は地袋の板戸の絵で、日本画家の佐藤紫煙の描いた「花卉図」。この箇所以外にも何点か同様の板戸絵があり、一階廊下に「牡丹孔雀図」、二階階段部に「竹鶴図」が描かれています。当主がパトロンだったのでしょうか?
 一階の大広間以外は数寄屋風の座敷が多く、別邸ということで趣味性の強い設えということなのでしょう。ユニークなのは四畳半の仏間で、左側に神棚があり右側には上げ下げ式の襖で仏壇が隠れること。神棚開けるときは襖を下げて、線香上げるときは神棚を閉めてということなの?

 

  

 大広間の反対側は、簡素な書生部屋と茶の間が続き、最奥に蔵が続きます。床板や柱には檜が使われています。

  

 広大な庭園は主屋前に池を造ってその北側になだらかな築山が広がっており、防砂林のアカマツ・クロマツが多く植わった砂丘地らしい構成です。作庭は明治期の代表的な庭師だった松本幾治郎の弟亀吉の手によるもので、明快で写実的な池泉回遊式の庭園です。国の登録記念物指定。
 ところでこの池は錦鯉と亀がウジャウジャいて、静かなバトルが展開しているようです。

 

 池泉回遊式なので苑路が走りますが、その飛石には佐渡の石臼を再利用したものが。よく見ると細部には面白い形状の石造物が点在しており、流水内には佐渡の赤玉石が置かれ、手水には鞍馬石、海老ヶ折石を積んだ滝組、十三重石塔の燈籠など。石燈籠も様々な種類のものが置かれています。

  

  

 

 築山の奥には茶室があります。「松鼓庵(しょうこあん)」と命名された席で、入母屋造りの桟瓦葺に銅板の庇が取り付く外観。内部は八畳の広間四畳の小間とで構成されます。この茶室に至る苑路には田舎家や待合もあります。

 

 

 この松鼓庵は小間側だけに内露地が形成されていて、鬼瓦が埋められた飛石を伝って門を潜ると、石灯籠や四方仏による遣水が配されており、席の名の由来となった太い根上がり松がまるで触手のように根を伸ばしています。

 

 

  



 「旧齋藤家別邸」
  〒951-8104 新潟県新潟市中央区西大畑町576
  電話番号 025-210-8350
  開館時間 4月〜9月 AM9:30〜PM6:00
         10月〜3月 AM9:30〜PM5:00
  休館日 月曜日 休日の翌日 12月28日〜1月3日