吐月峰柴屋寺 (とげっぽうさいおくじ) 名勝



 東海道五十三次十九番目の宿場町が現静岡市の府中宿(駿府)で、次の二十番目が鞠子宿(丸子)となり、そのまた次の二十一番目が岡部宿となります。この静岡市から先の区間は今でもそうですが海沿いのルートが取りづらく、東名高速も長い日本坂トンネルで焼津港へ抜けるしかありません。ましてや江戸時代にそんな土木工事など出来ませんから、東海道は山間の谷筋をウネウネと蛇行しながら急峻な山嶺を越えて行かなければなりませんでした。その難所越えを前に精を付けようって訳なのか、丸子宿ではとろろ汁が名物で、今でも「丁字屋」が昔ながらの茅葺屋根のお店で営業中。
 この丸子宿界隈は静岡市の外れにある山のとば口みたいな場所で、でこぼこした特徴のある山並が見られる所。安倍川流域で海にも近いので、ひょっとしたら海の浸食作用でもあったのかもしれません。丁字屋の先の丸子橋を渡らずに東海道から離れ、逆に北へ伸びる山裾の谷合の道を進むと右手に竹林に覆われたお寺が現れてきます。「吐月峰柴屋寺(とげっぽうさいおくじ)」と言う小さな寺院で、古来竹の名所・月の名所として知られるお寺です。国の史跡と名勝の指定も受けており、この竹林も名勝の指定範囲内。

 

 この吐月峰柴屋寺は室町期の連歌師だった柴屋軒宗長が1504年(永正元年)に隠居所として草庵を編んだ場所で、臨済宗妙心寺派に属す禅宗寺院です。元々中世の丸子城跡だった土地とかで、その城主だった今川氏の殿様が度々当地を訪れる内に堂宇が整備されたようですが、今は小さな本堂が残るのみ。
 この本堂の周囲に宗長が庭園を造っており、本堂を中心として東西南北各方向に見ることが出来ます。本堂正面の南側は丈の低い丸い刈込が並ぶ構成ですが、この上部に丸子富士と呼ばれる富士山状の山並みが遠く望め、京都洛北の円通寺のような借景式の庭園が広がります。

 

 一方本堂の西側と北側は竹林を背景にして、松や槙の植え込みや丸い刈込を並べ、東側から延ばされた流水が西の小池に注ぎ込む構成で、こちらは池泉観賞式の庭園。池の畔には池に映る月を愛でる為の月見石があり、その右手には坐禅石もあります。本堂の北西側が書院造の座敷となっているので、ここに座してのんびり庭の景色を眺めて過ごす人が多いようですね。

 

 

 もう一つの庭である東側は、北東崖下から岩清水の湧水が流れ出て、本堂北側の茶室横を抜けて西の池へと向かい、背景にラクダのこぶのような山容の天柱山の姿を取り込んだ借景式の庭園となります。茅葺屋根の茶室と独特の稜線を見せる天柱山の組み合わせはまるで文人画を思わせるもので、与謝蕪村の「新緑杜鵑図(しんりょくとけんず)や、雪景色ならば浦上玉堂の「凍雲篩雪図(とううんしせつず)」を思わせるような風景。
 なんでも京都銀閣寺の庭園を模した謂れがあるそうなのですが、改造が激しいらしくあまり似ている印象はありません。それよりもこの天柱山の借景は確かに素晴らしく、周囲の環境やロケーションこそにこの庭園の魅力があるように思われ、竹林や天柱山が名勝の指定範囲内とされていることにもそのあたりのことが伺えるのではないのでしょうか?

 

  



 「吐月峰柴屋寺」
   〒420-0103 静岡県静岡市駿河区丸子3316
   電話番号 054-259-3686
   拝観時間 5月〜10月 AM9:00〜PM5:00
         11月〜4月 AM9:00〜PM4:00
   無休