西教寺 (さいきょうじ) 重要文化財



 比叡山の麓、琵琶湖側に位置する坂本は、延暦寺で厳しい修行を積んだ老僧がその功徳を得て、山を降り隠居生活を送る場として幾つもの寺が作られていきました。緑豊かな静寂した街並に、民家に混じって今でも50箇所以上の寺が点在し、山王神社の総本宮である日吉大社もあることから、門前町としての顔も持つこの美しいいにしえの町は、文部科学省の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。
 この坂本の街外れの高台に、天台宗の一派で天台真盛宗総本山の西教寺があります。開基が聖徳太子の頃と言われる古刹ですが、その後荒廃し15世紀後半に宗祖の真盛上人により再興、戦国時代には信長による焼き討ちにより再び戦禍にみまわれましたが、明智光秀により再び復興し現在の様相となりました。山の斜面を利用した山域は非常に広く、総門から奥の本堂までは数百メートルの参道が伸び、両側には7頭ほどの塔頭が並ぶ坂本屈指の寺院です。

 

 本堂は総欅入母屋造りの外観で、桁行七間梁間六間の豪壮な建物。江戸中期の1739年(元文4年)に建立された大型仏堂で、国の重要文化財に指定されています。平面が少し変わっており、背面に三面の出っ張りを持つ凸型の形状を成していて、さらに正面両脇間に蔀戸をそれ以外は桟唐戸を嵌め、側面には花頭窓も開けた各宗派の様式が混成しています。また各所に装飾性の強い彫刻が散りばめられており、それは内部空間の内陣と外陣との欄間や組物の木鼻に須弥壇等により強く表れています。装飾彫刻で彫りこまれた芸術品のような大型仏堂と言えるでしょう。

 

 

 本堂から渡り廊下で繋がるのが客殿で、元々は伏見城の旧殿を移築したもの。屋根は柿葺で南面を入母屋、北面を切妻にし、桁行十二間梁間八間の大きさ。客殿としてはかなり大きな建物です。6室ある内部の部屋には狩野派の豪勢な襖絵や障壁画が描かれ、それぞれ絵のテーマに合わせて「賢人の間」「花鳥の間」「鶴の間」等で呼ばれており、また廊下部にも虎や松の絵が描かれた杉戸が嵌っています。別名桃山御殿とも呼ばれており、桃山期の華やかで煌びやかな息吹きを感じさせる華麗な建物で、この客殿も国の重要文化財に指定されています。

 

 

 この客殿の西側には池泉式の庭園があり、小堀遠州作と伝えられています。中央に琵琶湖を模した瓢箪型の池を配し、その奥に石組を積んで小丘坡を築いた近江の風景を再現したもの。大きさの違う様々な刈り込みがタペストリーのように織り成す景色は確かに美しく、修行中の清涼剤として機能しているのかもしれません。庭の北側には明治期に作られた茶室の観瀾亭が佇んでいます。
 客殿からは渡り廊下を挟んで書院があり、この書院の南側と北側にも庭園が造られています。南側の庭園は白砂に松と石を配した清楚な枯山水の庭で、一方北側の庭園は流水に池を作った涼感溢れる庭と、各庭の表情に変化があり飽きさせません。

 

 

 寺は比叡山の中腹に位置するため、庭はそのまま山腹の森林の中へ続いています。このあたり昔から野性の猿が多く、山を降りた猿が障子を開けお供え物を取ることもしばしば。寺では本堂に身代わり手白猿の伝説を持つせいか、猿に対しては寛大で、手荒なことはせず大切にされている模様です。堂内のあちこちにも猿にまつわるオブジェが幾つか。
 宗祖大師殿の前には大正時代に建造された唐門があり、ここから眺められるおだやかな琵琶湖の景色は、門を額縁とする絵画的な風景。

 



 「西教寺」
   〒520-0013 滋賀県大津市坂本5-13-1
   電話番号 077-578-0013
   拝観時間 AM9:00〜PM4:30
   拝観休止日 年中無休