六道の辻 (ろくどうのつじ)



 京都では「丸竹夷二押御池 姉三六角蛸錦・・・」と続く、洛中の東西を走る通りの名の頭文字を並べたリズミカルな数え唄がありますが、その歌詞の中で「四綾仏高松万五条」のうち松にあたるのが国道一号線の五条通から二つ北側を走る松原通。今では街中を抜ける細い路地に過ぎませんが、実は中世まではこの通りが五条通だった往年のメインストリートで、現在の五条通は秀吉が方広寺に大仏殿を造営した際に参道として造られたもの。鴨川に架かる松原橋が昔の五条大橋にあたるわけで、義経弁慶の伝説も本来はこちら。
 ということでこの松原通沿いには中世に遡る様々な不思議な物件・伝説が多く残る場所で、裏京都の代表的なスポットでもあったりします。

 

 松原通の名の由来は室町通あたりから松原橋にかけて松並木が並んでいたことから。今では民家やビルで密集してそんな面影は微塵もありませんが、清水寺から真西に伸びたこの通りは参道として栄えたようで、松並木に茶店が並んで賑わいを見せていたようです。
 特に鴨川の東側は、すぐ近くに京都屈指の観光スポットである清水寺や祇園があるにもかかわらず超庶民的な街並みで、スーパーに惣菜屋や肉屋にお好み焼屋が建ち並ぶごく普通の商店街。民家風の銭湯もあります。(京都の銭湯はこのパターン)

 

 

 清水寺の参道として機能していたこの松原通は、実はもう一つの顔を持っており、ぞれは野辺送りの葬送の道として。市中で葬儀が行われた後に屍体は棺桶に入れられてこの松原通を東へ向かい、松原橋のたもとで清水坂非人と呼ばれる葬送請負業の河原者に渡し、風葬地の一つだった清水寺の南にある鳥辺野に葬られていました。さしずめ鴨川は三途の川、松原橋はその渡し船のようなものだったわけですが、そのせいか沿道には死や来世に関連したスポットが点在しており、ちょいとばかりミステリアス。
 松原橋から400m程東へ進むと空也上人が開いた六波羅蜜寺がありますが、昔はこのあたりも鳥辺野に含まれていたそうで、この六原も髑髏(どくろ)が多数出たことから髑髏原(どくろはら)と呼ばれていたようです。
 この六波羅蜜寺のすぐ北側に西福寺という小さな寺があり、そこに子育て地蔵があります。

 

 

 この子育て地蔵の斜向かいには、今度は「みなとや 幽霊子育飴本舗」という小さな菓子店があります。菓子店といっても「幽霊子育飴」単品しか売ってない家庭内手工業的な店で、応対はとってもフレンドリー。試食も可。
 なんともおどろおどろしい名前の一品ですが、その由来は戦国期の1599年(慶長4年)にまで遡り、夜な夜な飴を買いに来る若い女がいて、不審に思った主人が後を付けると鳥辺野の墓地で姿を消してしまい、翌日寺の住職と墓地に向かってみると盛り土の中から赤子の声がするので掘り返してみたら、中から女の遺体のそばで赤子が飴をしゃぶっていたという伝説があり、それ以来「幽霊子育飴」として製造販売中です。以前はこの先の六道珍皇寺の門前で店を構えていましたが、近年当地にお引っ越し。ちなみにその赤子はその後成長して高僧となったとか。
 麦芽と水飴と砂糖のみで作られた素朴で優しい味わいの飴で、ほのかに麦芽の甘味が感じられます。

  

 この近辺が鳥辺野の入口にあたるようで、西福寺とみなとやとの辻に、「六道の辻」という標識があります。この先の六道珍皇寺にも同様に碑が立っており、まさしく冥界の入口といった場所なのでしょう。ちなみにこのみなとやの住居表示も轆轤(ろくろ)町で、やはり髑髏が沢山出たことから。

  

 西福寺から東へ150m程坂を登ると、その六道珍皇寺の前に出ます。ここは平安期の貴族で数々の謎めいた伝説を持つ小野篁(おののたかむら)の住居跡で、境内には冥界に通ずる井戸があり、夜な夜なその井戸に潜って閻魔王宮に出入りしていたという伝説があります。井戸は庭園奥にあって、本堂脇の木戸の窓から覗けます。ちなみに冥界の出口は嵯峨野にあるとか。
 他にも強面の閻魔大王の坐像が祀られた閻魔堂や、霊を迎える為の「迎え鐘」と呼ばれる鐘楼があります。この鐘は自由に突けるようになっており、中々良い音色。

 

  

 この六道珍皇寺前をそのまま東へ坂を登れば清水坂となり、清水寺へと至りますが、今の鳥辺野の墓地へ向かうにはここで真南へ道をとります。この道は昔の鳥辺野大路で、鳥辺野の中心を貫く古い道。まさしく野辺送りが行われた道ですが、その道は曲がりくねって段々か細くなり、傾斜もきつくなって鳥辺山の中へ続きます。今は民家が密集してますが、かつては累々と屍が横たわってあったのでしょう。
 現在の鳥辺野の墓地は清水寺のすぐ下一帯。近くに始終観光客でごった返す世界文化遺産スポットがあるとは思えないほどの静けさです。

  

 



 「みなとや 幽霊子育飴本舗」
   〒605-0813 京都府京都市東山区松原通大和大路東入ル
   電話番号 075-561-0321
   営業時間 AM10:00〜PM4:00
   休業日 月曜日

 「六道珍皇寺」
   〒605-0811 京都府京都市東山区松原通東大路西入ル
   電話番号 075-561-4129
   拝観時間 AM9:00〜PM5:00 境内自由