日本二十六聖人殉教地 (にほんにじゅうろくせいじんじゅんきょうち)



 JR長崎駅前のすぐ東側の小高い丘の中腹に西坂公園という広場があります。長崎は海辺の入江の街らしく入り組んだ複雑な形状を成していて、この西坂公園の眼前は足元の長崎駅越しに港全体が見渡せる美しいオーシャンビューのスポットだったりするのですが、駅からここまでは細い路地を縫って息をつくような急坂を攀じ登らないと辿り着けません。足腰の弱い方は短区間でもタクシーが賢明でしょう。
 で、この西坂公園は桃山期のキリシタン禁制の際に見せしめとして宣教師と信者合わせて26人が十字架に磔にされて処刑された場所で、原爆投下後に焼け野原となったこの地を長崎市が公園化し、記念館や礼拝堂を設立したのがその内容なのですが、特に公園内での象徴的な作品として記念館前に長大なブロンズのレリーフが建てられてあり、来訪する者をまず最初に出迎えてくれます。広場から見ると少し高い位置にあるせいもあって、厳かな祭壇のような雰囲気。

 

 このレリーフは1962年(昭和37年)に彫刻家舟越保武によって造られた作品で、大きさは幅17m高さ5.88mあります。敬虔なカトリックのクリスチャンでもあった舟越の代表的な作品としても知られており、完成までに4年半を要した労作で、第5回高村光太郎賞を受賞しています。
 秀吉の切支丹禁教令が発令された10年後の1597年(慶長2年)2月5日に、関西地区で布教活動を行っていたフランシスコ会宣教師6人と日本人信者20人が処刑された姿が現わされており、右から左へ26人の殉教者が処刑順に並んでいます。昇天する姿を彫り込んでいるようで、足は下に垂れた状態。この西坂はキリストが磔にされたゴルゴダの丘に似ているとかで、宣教師達が当地を所望したらしく、夕陽の沈む海を眺めながら讃美歌を歌って天に昇る等身大の姿が浮かび上がります。

 

 26人の人物が精巧な描写力によって写実的に表現されており、特に最年少のルドビゴ茨木(12歳)を含めた3人の少年の塑像が強く心に残ります。舟越保武の作品はダミアン神父像や聖クララ像のように過酷な運命に遭遇した人物を題材とすることが多く、的確なデッサン力とロダンの影響による重厚な力強い表現力により、圧倒的な力量によってその人物の内面にまで切り込んだ優れた作品を次々と発表しており、その頂点ともいえるのがこのレリーフです。作家自身の幾多の困難な半生の中で磨かれていった甘ったれたひ弱な感性では到達できない深遠な世界が、この崇高なまでの作品によって語られているのでしょう。

 

 

 このレリーフの裏手に記念館が、通りを挟んで隣の敷地にガウディ風の礼拝堂があります。山手地区にある国宝の大浦天主堂はこの26聖人を祀った聖堂で、正式名も「日本二十六聖人殉教聖堂」となり、この西坂を正面とする配置で建てられています。セットで見学するのがベター。

 



 「西坂公園」
   〒850-0051 長崎県長崎市西坂町7-8
   電話番号 095-822-6000(記念館)