自由学園明日館 (じゆうがくえんみょうにちかん) 重要文化財



 20世紀を代表する建築家フランク・ロイド・ライトが日本に滞在して設計した建築は12件、その中で実際に建造された物は全部で6件、うち現存するのは4件で、完全な形で遺されているのは芦屋の山邑邸(現ヨドコウ迎賓館)とこの自由学園の明日館のみ。この明日館も80年代には老朽化が目立つようになり、その存亡を巡って論議が展開されましたが、97年に国の重要文化財の指定を受けてからようやく修復作業が行われ、21世紀に入った2001年にその竣工当時に近い形に復元されて再び美しい姿を取り戻しました。今でも週末を中心にコンサートや結婚式に公開講座などが開かれており、平日中心ですが内部公開も行われています。

 

 ライトがこの明日館の設計を受けたのは、弟子の遠藤新が自由学園の創立者羽仁もと子と懇意であったことから。羽仁夫妻の教育理念である、「思想しつつ、生活しつつ、祈りつつ」の言葉通りに、素朴な佇まいの中に生活に根ざした実り豊かな空間を創出することが図られており、今で言うロハスな建物というところでしょうか。1921年(大正10年)に中央棟と西教室棟が竣工し、1925年(大正14年)に東教室棟が完成、1927年(昭和2年)に講堂が完成しました。中央棟を中心にして東西の教室棟が、陽当たりのよい広い南庭を囲むようにしてシンメトリーに建てられており、丈の低い建物のせいか他の教育施設にありがちな威圧感が無く、ライトの故郷のアメリカの田舎を髣髴とさせる芳しき田園性が感じ取れます。木造モルタル塗りのシンプルな構造ですが、大谷石が使われているところは帝国ホテルや山邑邸と同じライトの手法。

 

 

 建物の中心である中央棟は内部がホールと食堂からなり、特にホールは南面の大きな窓が印象的な空間。ここは礼拝堂だった場所で、高価なステンドグラスを使わずに複雑な幾何学模様を施して、少ない予算で効果的に見せる工夫がなされています。この幾何学模様はこの建物のキーワードで、様々な箇所において統一された意匠が見られます。照明器具にもライトらしい独特なスタイルが踏襲されています。

 

 

 ホールの北側に中二階のように造られたのが食堂。食堂の下に厨房があり、食堂・ホール・厨房が”く”の字のような形の構成です。食堂は舟底状で天井が高く、窓や吊ランプも天井に対して平行線とした斜線が強調された空間で、この中央棟全体の配置構成とも関連した意匠。吊ランプや窓ガラスにもライト独特の幾何学模様が採用されています。

 

 

 教室も食堂同様に斜線を強調した意匠で、落着いたシンプルな造り。玄関にも独特の幾何学模様が施されて統一感が保たれています。玄関前の廊下にはスポットライト的な天窓があり、外光を効果的に使うライトらしい演出です。

 

 

 前庭の南側に道路を挟んで講堂があります。この講堂はライトの手によるものではなく、弟子の遠藤新が手がけたもので、生徒の増加によりホールが手狭になった為に追加して建てたもの。師ライト設計の校舎のデザインに寄り添った、大谷石や幾何学模様を多用した建物です。ここでは結婚式がよく行われるようです。

 

 



 「自由学園明日館」
   〒171-0021 東京都豊島区西池袋2-31-3
   電話番号 03-3971-7535
   FAX番号 03-3971-2570
   開館時間 AM10:00〜PM4:00
   休館日 毎週月曜日 年末年始 (土日は拝観不可の場合が多い)