室生犀星記念館 (むろおさいせいきねんかん)



 旧軽井沢のショー通りから万平ホテルへ抜ける小径沿いに、詩人で作家だった室生犀星の別荘が残されています。このあたりは旧軽メインストリートから程近いのに、ちょっと判りにくい場所にあるおかげかメインストリートの喧騒とは無縁の清閑とした時間が流れており、丈の低い板塀に囲まれた別荘の周囲は鬱蒼とした小暗い森の中。ちなみに小径を挟んだ対面には松方正義の孫であった松方春子の別荘があり、以前は作家森瑤子も所有していたロッジ風の古い洋館で、現在はカフェとして営業中です。

 

 犀星が軽井沢へ初めて訪れたのは1920年(大正9年)の夏。きっかけは子供の健康と自身の休養の為だったようですが、既に外国人向けの避暑地として開発され森の中に洋館が点在するその風景に、浪漫的傾向の強い文学者としてはその非日常性に魅入られたようで、それからは毎夏訪れ都会の喧騒を遠く離れた優雅な時間を過ごしていたようです。
 当初は旧軽銀座にあった「つるや旅館」を定宿にしていたようですが、1931年(昭和6年)にこの別荘を建てて晩年まで毎夏過ごしています。元は杉皮で今はトタン屋根に葺き変わった木造平屋建てによるこじんまりとした住宅建築で、内部も畳敷きの部屋二間と玄関・台所が並ぶだけのとてもシンプルな構成。別荘と言うよりはなんだか長屋の様な建物で、自分たちをコオロギに喩えて一家四人で静かに過ごしていたようですね。隣のちょっと高台にある建物は、翌年に造られた客人用の離れ。

 

 

 軽井沢と文学者はとても所縁が深いのですが、その先鞭を切ったのが犀星自身で、萩原朔太郎・芥川龍之介・堀辰雄といった面々を連れて来て遊んでた模様です。このうち一番ドハマリしたのが堀辰雄で、追分地区に引っ越したのは有名な話。
 この犀星別荘で特筆すべき点は庭の苔の美しさ。苑路以外はびっしりと杉苔が覆い尽くしており、周辺の森の木立と相まって美しい景観を作り出しています。

 



 「室生犀星記念館」
  〒389-0102 長野県北佐久郡軽井沢町大字軽井沢979-3
  電話番号 0267-45-8695 (軽井沢町教育委員会文化振興係)
  開館時間 4月29日〜11月3日 AM9:00〜PM5:00