水沢緯度観測所 (みずさわいどかんそくじょ) 登録有形文化財
国立天文台の本部は東京の三鷹市にありますが、その三鷹よりも古くから国の天文台として開設されているのが岩手県奥州市の水沢地区。明治期に緯度観測所として開設されてから100年以上の長い歴史を持ち、現在でも国立天文台水沢として稼働されており、無料で随時見学が可能です。広大な敷地に様々な観測施設が点在されていて、特に開口直径20mの巨大電波望遠鏡ツインは中々の壮観。銀河系の精密な立体地図を作るという壮大な計画の観測装置だそうです。
何故この東北の一地方都市である水沢に天文台が設置されたかというと、当時世界で極運動(北極と南極の位置が動く)が問題になっており、ドイツのミュンヘンに本部を置く国際測地学協会が国際緯度観測事業として世界各地の北緯39.度8分線上に6つの観測所を設置することになり、この水沢がその観測所の一つに選ばれたことから。1899年(明治三十二年)に文部省所轄研究所臨時緯度観測所として発足され、1988年(昭和六十三年)に改めて国立天文台が設立されることになり、東京天文台と共に統合されて今に至ります。構内では開設の経緯となった北緯39度8分線が白線で線引きされており、当時はその線上に小さな小屋(目標台)を建てて、中に豆電球を吊るし南側から水平に設置された望遠鏡から覗くという方法で観測されていたとか。
その豆電球を観測する為に作られた眼視天頂儀室は構内で最も古い建物で観測所発足時のもの。下見板張りの百葉箱みたいな外観ですが、この中で水平に望遠鏡を設置し100m先の目標台内部の豆電球を覗いて、正確な北の方向を観測していました。眼視天頂儀室・目標台は共に国登録有形文化財に指定されています。
その当時の庁舎は場所が移されて構内一番北側にある木村榮記念館。開設当時の所長の功績を記念して命名されており、観測所発足翌年の1900年(明治三十三年)に建造されています。寄棟造桟瓦葺屋根の木造平屋建てですが、あくまでも臨時の観測所ということから装飾性皆無の簡素な洋風建築で、こちらも国登録有形文化財指定。
当初観測は一時的なもので恒久的ではないと考えられていましたが、極運動が極めて複雑なことから本腰を入れて取り組む必要性が生じ、1921年(大正十年)に旧庁舎だった木村榮記念館よりも規模の大きな本館が建てられています。木造二階建ての洋風建築で、寄棟造り桟瓦葺の屋根に下見板張と白漆喰塗りの外壁となり、中央頭部の塔屋を中心にシンメトリカルに上げ下げ窓がリズミカルに配置された構成の外観。
平面図で見ると中央部と翼廊部が前面に突き出す構成で、特に中央部の正面は装飾性が少し強くなり、ドイツ式下見板張の外壁も含めてドイツの山小屋風の趣が醸し出されていて、塔屋も含めてややメルヘンチックな意匠ではあります。国際測地学協会の本部がドイツのミュンヘンにあるのでそこに由来しているのでしょうか?実は近所の花巻に居住していた宮沢賢治が度々この本館を訪れており、特に代表作の「風の又三郎」や「銀河鉄道の夜」に深く影響を与えているようですね。
内部は一二階共に廊下に面して整然と部屋が並ぶ戦前の学校建築と同様の設えで、建ちが高いので天井も高くその天井近くまで開かれた窓によってとても明るい室内。現在は地元奥州市に譲渡され文化施設として再利用されています。こちらも国登録有形文化財指定。
「国立天文台水沢」
〒023-0861 岩手県奥州市水沢区星ガ丘町2-12
電話番号 奥州宇宙遊学館 0197-24-2020
開館時間 奥州宇宙遊学館受付 AM9:00〜PM5:00
休館日 火曜日 12月29日〜1月3日