国立民族学博物館 (こくりつみんぞくがくはくぶつかん)



 1970年大阪万博閉会後は、太陽の塔以外のパビリオンは全て撤去されて緑地化が施され、茶畑が出来たり水車小屋が建ったり森が再生されたりと、また狸が遊ぶ元の里山へと還っていったわけですが、太陽の塔の北側にあった万国博美術館(後に国立国際美術館)と大阪日本民芸館はそのまま残されることになり、その二つの文化施設に隣り合うように今度は新設で民族学の博物館が誕生しています。
 民俗学ではなく文化人類学としての民族学についてのミュージアムなので、万博絡みの施設としてはまあ一番無理の無い趣旨とも言えますし、研究機関としての役割も兼ね備えているので、大学のようなアカデミックな面も持っており、何よりもアートのギャラリーとして見ても面白い場所でもあります。
 1977年(昭和52年)11月開館。

 

 この通称「みんぱく」と呼ばれる国立民族学博物館は、何よりもその規模が超弩級に大きなことで、敷地面積が40821u(約1万2千坪)に延床面積が51235uもあり、その立地に故黒川紀章設計による4階建ての重量感漲る要塞のような外観は、垂直性重視の太陽の塔と並ぶ公園内での象徴的な建物。
 本館と特別展示館とに分かれており、展示スペースは本館の2階になります。(それでもとてつもなく広い)
 でこの本館、ニューヨークのメトロポリタン美術館のようにパティオといって中庭が大小色々と開いていて、それぞれのパティオの周りを巡回しながら順路を進む構成となっており、このパティオ自体も展示スペースとして有効に使う巧みな手法。中央にある一番広いパティオはモヘンジョダロ風の趣です。
 正面玄関入って直ぐにオランダ製の大型手回しオルガンがあり、定時に演奏会が行われています。これも展示物の一つ。

 

 広い展示スペースは世界を9つの地域に分けてそれぞれブロック毎に紹介されており、オセアニアに始まって最後の東アジアまで順路に従って巡る構成で、さながら世界一周気分で回れます。プチ万博状態。
 展示会場最初のブースはオセアニア地区の船の展示で、沖縄にも来たことのあるミクロネシア諸島サタワル島のチェチェメニ号が展示のスタート。さしずめこの船に乗って大海へ出て世界一周の旅へ!という気分を盛り上げる為なのでしょうか。そばにはイースター島のモアイ像も待ち構えています。

 

 オセアニア→アメリカ大陸→ヨーロッパ→アフリカ→西アジアの順番で回るのが前半戦。東回りの航路のようです。それぞれ先住民族の紹介に重きを置いているようで、マオリ・アボリジニ・ネイティヴアメリカン・イヌイット等の文化風習が立体的に展示されており、祝祭儀礼や宗教行事で使用される仮面・衣装・道具や、アステカの暦石にトーテムポール等が並びます。

 

  

 アフリカのブースではザンビアのニャウ・ヨレンバやムングリという葬祭に使われる動物の張りぼてがあり、先祖の死者が森の動物となった姿を現わすそうで、その姿はどことなくスタジオジブリのアニメのキャラを彷彿とさせます。ハイエナやカモシカにカメなど。
 他にもナイジェリアのヨルバ族のビーズをあしらった首長の人像やベニン王国の王母の頭像など。
 西アジアではシーア派の涙壺があり、これなどはもう工芸品としてみても優れた流麗な姿のオブジェです。

 

  

 ここで一旦世界旅行はブレイクアウトで、楽器の展示コーナーに入ります。世界中のありとあらゆる弦楽器・管楽器・打楽器が一同に集結。特にアジア地域のゴング・ガムラン方面が充実。
 隣は言語コーナーで、その先が企画展示ブース。ここまででようやく全体の半分ほど。

 

 後半戦の第一弾はインドを中心とする南アジア地域。このブロックは宗教が複雑に絡み合っている地域で、そのせいか他のブースよりも宗教関係の展示物多しです。重々しいシク教の経典やネパールの仏塔・曼荼羅等が並びますが、生活感も味わえる展示物もキチンと併設されていて、庶民たちのエネルギッシュなインドパワーの暮らしぶりが窺えます。

  

 

 その先は東南アジアのコーナー。こちらは稲作の農耕文化と漁村における海の生活の二つに分けられており、特に家船と呼ばれる水上生活者の船が幾つも展示されています。ここではパティオにも設置。
 またジャカルタの街中で見られる屋台もあります。

 

 

 次が東アジア地域。最初は朝鮮半島の文化の紹介で、特に葬儀時の風習について多く取り上げています。ここでもパティオに展示物があり、酒幕と呼ばれる昔の居酒屋が復元されています。実際に中に入ることも可能で、冬の寒さが厳しい国の為かオンドルになっており、床はポカポカします。

 

 隣は中国のブースとなり、さらにモンゴル・中央アジアと続きます。東アジア地域の展示は住宅環境の再現が中心のようで、ここではカザフとモンゴルの遊牧民の天幕がそれぞれ置かれており、生活用品や調度品も極めて忠実に紹介されています。実際に中に入れればもっと良いのですが。

 

 最後は日本のブース。やはり住宅環境の再現ということでアイヌの茅葺民家が展示されています。それから白川郷の合掌造りの民家や、南部曲家に沖縄竹富島の二棟造りの民家がジオラマで紹介されており、地方の農村・漁村の伝統的な生活様式を重点的に展示されていることから、このあたりは民族学というよりは柳田國男や宮本常一の民俗学に近い内容ではあります。
 軽く流してみるだけでも2時間はかかるので、半日は潰すつもりで観覧したほうがよいです。民族学方面ということからレストランもエスニック料理が充実しているので(バインセオ・ナシゴレン・バッタイ等)、それ目当てというのもあるかもしれませんね。

 

 



 「国立民族学博物館」
   〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
   電話番号 06-6876-2151
   開館時間 AM10:00〜PM5:00
   休館日 水曜日 12月28日〜1月4日