丸太町駅界隈 (まるたまちえきかいわい)



 京都市内を南北に走る市営地下鉄烏丸線、京都駅から国際会館駅方面に乗って4つ目の駅が丸太町駅となりますが、別のこの駅周辺が丸太町と呼ばれている地区ではなく、駅の真上を東西に丸太町通りが走っているから名付けられているだけで、正しくは烏丸丸太町というのが本当の名前。実際に一つ手前の烏丸御池駅も東西線が開通するまでは御池駅でしたし、今では神宮丸太町駅と改名しましたが、川端丸太町にある京阪電鉄鴨東線も以前は丸太町駅として先に開業していました。京都市中の住居表示は他所と違って特殊な為に、慣れないと少々ややこしいのは事実です。
 そんな地下鉄烏丸線の丸太町駅界隈は、同じ京都市中心部でありながら四条河原町や祇園ほどメジャーでは無い為かわりと閑散としており、御所の一般公開の時期だけ外せば観光客でごった返す事はまずありえません。
しかし意外と中々侮りがたいスポットが周囲に点在しており、観光地ずれしていない京都の魅力が味わえる場所だったりもします。

 まず駅の北口を出て、丸太町通りを東に向かい、京都御苑に入ってすぐ右手にあるのが閑院宮邸跡。かつての四親王家の一つであった閑院宮の邸宅があった場所で、明治期の東京遷都に供なって公家の皆様がお引っ越しされてしまい、その後官公庁として使われていたのが今の建物だそうで、今では貴重な公家の御屋敷ということになります。但し何時建てられていたかは全く不明で、大分改変があったらしく往時の姿はあまり留めていない模様。復元された宮廷庭園にその名残りを見るしかないのでしょう。無料公開中。

 

 

 御所があり公家の御屋敷が集中していたように、この一帯は古来高級住宅地として権力者達が邸宅を構えた土地でした。平安期には藤原氏を始めとする貴族達が優雅な暮らしを送り、桃山期には秀吉が聚楽第を造成して御所との間に金箔を貼った瓦屋根の武家屋敷が軒を連ね、幕末には京都守護職の上屋敷が設置されて、会津の殿様が君臨していたというわけです。今ではその遺構をうかがい知る術はありませんが、石碑があちらこちらにあるのでオリエンテーリングしてみるのも一興では。
 明治期になってもやはりお大尽が邸宅を構えていたようで、2番出口で上に出るとすぐ北側に大丸百貨店のオーナー一族の豪邸が構えられていたりします。「大丸ヴィラ」と名付けられた第11代社長だった下村正太郎氏の自邸で、戦前の1932年(昭和7年)に建造されたチューダー様式の重厚な洋館です。ちなみに設計はやはり大阪心斎橋の大丸本店を手掛けたウィリアム・メリル・ヴォーリズ。周囲を高い塀と樹木に覆われているのでとても謎めいた雰囲気があり、京都市中のド真ん中とはとても思えない物件です。
 この大丸ヴィラから烏丸通りを北上し150m程進むと、今度はゴシック様式のこれまた重厚な西洋建築がお目見え。これは聖アグネス教会と呼ばれる礼拝堂で、隣接する平安女学院の施設。1898年(明治31年)に建造されています。

 

 この平安女学院は校舎が恐ろしく古く、1884年(明治17年)に建造されたアン女王スタイルの洋館(明治館)や、大正期の建造なのに昭和館と命名された(1923年=大正12年)装飾性の豊かな洋館が並び、日本で最初にセーラー服の制服を導入したハイカラな女子高らしい陣容です。
 またアグネス教会の北側には公家屋敷の有栖川宮邸も残り、ここも平安女学院が茶道などの実習場として使用しているようです。たまに内部も一般公開されています。

 

 この平安女学院から西へ50m程進んだ住宅街の中に、「手塚」という小さな洋食屋さんが店を構えています。本当にこじんまりとしたお店で、おそらく家族経営で自宅の一階を店舗として開いているのでしょう。注意していないと見逃してしまうほど、街中にひっそりと佇むお店です。
 でもこのお店の評判は中々良いらしく、平日のランチ時ではいつも満員御礼で、特に女性のお客さんが多いのが特徴。ポークカツレツやハンバーグの人気が高いですが、お薦めは海老フライ定食。プリップリッの海老に軽くサクサクッと揚がった薄い衣の海老フライが5本も付いており、京都らしくやや薄味な軽い味わいは胃に全く持たれず美味。ピクルスも自家製の卵たっぷりのタルタルソースが濃厚な味わいなので、その量によって味の濃淡を変えることも出来、このタルタルソースでサラダを食べても本当に美味しいです。付け合わせの茄子のフライも程良くマッチ。

 

 

 洋食屋つながりで、この「手塚」から今度は西へ500m程進んだ浮田町にあるのが「キッチン・ゴン」。ここも周囲は下町風情の住宅街で、スーパーやアパートが並ぶとても庶民的な一画に店を構えています。この店の特徴は、全てのメニューが激しく量が多くとてもリーズナブル。学生向けの大衆食堂めいたメニューが並びますが、メインとなるのは名物のピネライス。チャーハンにトンカツかビーフカツが乗り、その上にカレーがかかった京都番トルコライスのような一品で、カレーをハヤシに変えたりハーフ&ハーフにしたり、チャーハンをドライカレーに変えることも可能。もうそうなると何を食べているのかわからない味になりますが、不思議とクセになる美味さです。カロリーがかなり高いので、体育会系のメニューかもしれませんが。

 

 もう一軒不思議なメニューの洋食屋として西陣になりますが、「千疋屋」という店があります。ここも周囲は西陣の商店街に構えており、下町風情がとても濃厚な場所。ここの不思議メニューは「欧風ビーフカツ丼」なる一品で、丼の中にサフランライスが入り、その上にベーコン入りスクランブルエッグとチーズを芯にしてグルグル巻きにした薄いビーフカツをのせて、さらに玉ねぎとマッシュルームを添えたデミグラスソースをかけてサワークリームも加え、最後に香草をひとつまみという摩訶不思議なもの。一つ一つ手間暇かけて色々な部品を精巧に組み上げていく京都らしい洋食と言えるのかもしれません。味わいはかなり複雑濃厚。

 

 丸太町駅からは京都府庁を挟んで反対側になりますが、油小路通り沿いの住宅街に楽美術館があります。文化財にも指定されている楽家の御屋敷の片隅で、初代楽長次郎から代々続く楽焼の茶碗・工芸品・古文書・資料等を展示公開しており、ロビーのソファに座って苔むした楽家のお庭を眺めるだけでも心落ち着く空間です。ランチ後に腹ごなしでまったりと過ごすのも良いかもしれません。

 



 「閑院宮邸跡」
   〒602-0881 京都府京都市上京区御苑3
   電話番号 075-211-6348(環境省京都御苑管理事務所)
   開館時間 AM9:00〜PM4:30
   休館日 月曜日 12月29日〜1月3日

 「手作り洋食屋 手塚」
   〒602-8026 京都府京都市上京区新町通丸太町上ル一筋目東入ル春帯町345-2
   電話番号 075-211-1362
   営業時間 AM11:30〜PM2:15 PM6:00〜PM8:00
   休業日 日曜日 祝日

 「キッチン・ゴン 西陣店」
   〒602-8104 京都府京都市上京区下立売通大宮西入ル浮田町613
   電話番号 075-801-7563
   営業時間 AM11:00〜PM9:40
   休業日 年中無休

 「欧風料理 千疋屋」
   〒602-8415 京都府京都市上京区大宮通寺ノ内上ル前之町460
   電話番号 075-441-7045
   営業時間 AM12:00〜PM1:30 PM6:00〜PM7:30
   休業日 水曜日

 「楽美術館」
   〒602-0923 京都府京都市上京区油小路通一条下ル油橋詰町84
   電話番号 075-414-0304
   開館時間 AM10:00〜PM4:30
   休館日 月曜日 祝日の翌日