前川國男邸 (まえかわくにおてい) 東京都有形文化財



 全国各地に有名建築家の設計した住宅建築が色々とあり、内部公開されているものも多々あるのですが、建築家本人の設計した自邸を公開している箇所は非常に少なく、江戸東京たてもの園の前川國男邸以外はトンと聞きません。多くは今でも家族の方々の生活空間となっているようなので致し方ありませんが、建築家自身の考え方が最も反映された作品になることが多いので、是非とも見学乞い願いたい物件群ではあります。
 そんな貴重なこの前川國男邸ですが、建造されたのは太平洋戦争の真っ最中だった1942年(昭和17年)のことで、目黒駅に近い品川区の上大崎三丁目に建てられたもの。1973年(昭和48年)に解体された後は軽井沢の別荘に部材が保管され、1996年(平成8年)にこの地に復元されたのがその由来。外観は桟瓦葺の大きな切妻屋根が印象的で一見すると民家風の趣がありますが、正面に大小様々な窓がシンメトリカルに配置され、その四角の窓と屋根の三角とが相まってキュビズムのような幾何学的なマスクを持ち、モダニストであった氏の個性が良く出ています。

 

 前川國男は戦前戦後にかけて特に公共建築において活躍した建築家の一人で、20世紀を代表するフランスの建築家ル・コルビジェの日本人としては最初の弟子だった経歴から、我国におけるモダニズム建築の先駆者というべき人物。師匠から薫陶を受けたモダニズム建築を次々に設計し、「紀伊国屋書店」「東京文化会館」「東京都美術館」「東京海上ビル」等が代表的な作品群ですが、住宅建築はあまり手がけておらずその意味でもこの自邸は貴重です。アントニン・レーモンドの事務所でも働いていたので、同じモダニストでもこのような木材を使った温かみのある建物が出来たのでしょう。自邸のあった場所は南北に長い敷地に建物を南寄りに建てた為か玄関へのアプローチは長く取られていて、ここでも同様に比較的にアプローチが長く復元されています。

 

 この建物が建造された当時は、戦時中の為に建築資材が使用制限され、さらに延床面積100u以上の住宅が禁止されるという困難な状況に有り、如何にして少ない資材や狭い面積で効果的な居住空間が勝ち取れるかに苦心しており、アルチザン的なプロフェッショナルの仕事ぶりも伺える作品です。内部は中央に吹き抜けの広い居間の両側に書斎と寝室を配したシンプルな構成で、特に居間は南側を床から天井まで全面をガラス張りとした明るく開放的な空間。その窓も中央から下葉は明り障子を嵌め上部は格子窓を入れて変化を与えた、日本の伝統建築の手法も上手く織り込んだ巧みな意匠です。この居間にはロフト状の2階があり、その2階の南側には棚が造りつけられていて、居間側はガラス張りとして陶磁器などを並べたディスプレイの機能も持たせた秀逸な構成。

  

 

 居間の両サイドにある書斎と寝室は、ごく狭いシンプルな小間で、あまり居住性は重要視された空間ではありません。書斎は仕事部屋として使われ、寝室も建築当初は独身だったので一人身の男の寝部屋としてはこんなものかなと言う感じです。後で結婚して夫婦の寝室になるのですが、居間の豊かな居住空間からすると奥さんから不平不満が出なかったのでしょうか?東京都有形文化財指定。

 



 「江戸東京たてもの園」
   〒184-0005 東京都小金井市桜町3-7-1(都立小金井公園内)
   電話番号 042-388-3300
   入園時間 4月〜9月 AM9:30〜PM5:30
         10月〜3月 AM9:30〜PM4:30
   休園日 毎週月曜日 年末年始