窪八幡神社 (くぼはちまんじんじゃ) 重要文化財



 新宿方面からJR中央本線に乗って笹子の長いトンネルを抜けて、甲府盆地に入った最初の駅が勝沼ぶどう郷駅、そして塩山駅と続き、その後山梨市駅・石和温泉駅と続くのですが、その塩山駅と山梨市駅との間に東山梨駅と言う小さな無人駅があります。この近辺では屈指の寂れに寂れた駅で、駅舎がそもそも無くトイレも当然無い、駅前には店舗のような気の利いた施設も一切無く、客待ちのタクシーもいる筈が無い、対面式のプラットホームがあるだけのしけた駅です。周囲は葡萄畑に住宅が建ち並ぶ市街地で、近辺の駅が行政や観光の中心になっているのに比べてその落差は激しく、およそ観光客など無縁な場所と思われてしまいますが、結構侮りがたい場所にこの駅はあり、駅のすぐ裏手の葡萄畑のド真ん中に国宝の仏殿がある清白寺があり、駅北側の住宅街に旭洋酒という小さなワイナリーや観光農園があります。この旭洋酒は夫婦二人だけで運営する家庭内手工業の手作りワインで、「ソレイユ」ブランドとして首都圏でも販売しており、良心的な価格で中々良質のワインが楽しめます。特に白の甲州種が美味。この旭洋酒からさらに北西へ向かい、笛吹川を渡ってしばらく行くと、大きな鳥居がその行く手に立ちはだかります。この鳥居はこの奥に鎮座する窪八幡神社のもので、木造鳥居としては最古の1540年(天文9年)の建造。

 

 窪八幡神社は正式名を大井俣窪八幡神社と呼び、平安初期の859年(貞勧元年)に大分の宇佐八幡宮が勧請されて創建された神社で、当初は笛吹川の中島である大井俣に建てられたので大井俣神社と称していましたが、当然中島は危険極まりなく濁流に呑み込まれて流失、で現在の窪地に引越しして今の大井俣窪八幡神社の名称に変更されました。特に戦国期に武田家の加護を受けて繁栄し、今ある建造物の大半は信玄の父である武田信虎が再建させたもので、殆どが国の重要文化財に指定されています。鳥居を潜って参道を進むと檜皮葺の総門があり、この門も1542年(天文11年)に建造された武田家の建立したもの。境内は相当に広く、鬱蒼とした森が延々と続きます。

 

 参道の奥まった場所に社殿群が建ち並んでおり、何れも神社建築としてはかなり個性的な物件が数多く並びます。参道から石段を登ってまず正面に見えてくるのが拝殿で、室町後期の1557年(弘治3年)に武田信玄が信州の村上義晴を攻める際の祈願成就のために建造されたもの。外観ではなんといってもその長大さに大きな特徴があり、間口が全長11間にも及びます。屋根が一重切妻造りで檜皮葺。奥行きは3間ほど。
 この拝殿は左右が非対称で(正面から見て左が長い)、床が非常に低く、内部が吹き放しで天井も無く化粧屋根裏であることから、元々拝殿として建造されたものではなく、庁屋(社務所)として使われていたのではないかと考察されています。かなり特異な建物で、柱上の舟肘木や軒の疎垂木など中世の住宅建築の手法も用いられており、簡素で素朴ながら軽やかな印象も与えています。

 

 

 この拝殿の奥に本殿が鎮座しています。室町後期の1531年(享禄4年)に武田信虎の寄進により建造されたこの本殿も拝殿に負けず劣らず特異な社殿で、流造りの社殿としては最長の11間にも及ぶ横長の造り。賀茂神社を規範とする流造りは横幅に自由度があり、大抵は1間か3間の造りが多いのですが、ここの本殿は流造りとしては最大のものです。3間社を3つ並べその間に1間づつ挟んで並べた構成となり、中殿に応神天皇、北殿に仲哀天皇、南殿にその皇后だった神功皇后を祀っています。1557年に息子の信玄が金箔を貼ったとかで、かなり落剥していますが丹塗りの朱色と相まって中々壮麗で、軽快な拝殿と異なりこちらは重厚な印象が感じられます。

 

 この本殿・拝殿セットの北側には、今度はその組み合わせを縮小化したような社殿のセットが建てられています。まず手前にあるのが摂社若宮八幡神社拝殿で、1536年(天文5年)に建造されたもの。屋根が入母屋造りの檜皮葺と他の社殿と大きく異なり、仏堂を思わせる外観です。大きさは桁行4間奥行3間と長大な拝殿に比べると小さいですが、このスケールの方が一般的で、拝殿の特異性がよく判るというもの。拝殿同様に内部は装飾性ゼロの簡素な造りで、まるっきり透け切っています。
 この奥に摂社若宮八幡神社本殿が鎮座しています。こちらは3間社流造りの檜皮葺と標準的な形式で、15世紀後期の建立。境内では一番古い建造物です。反りの深い檜皮葺の屋根と丹塗りの朱色が美しく映え、装飾性が少ないことがかえって端正な印象を与えています。

 

 

 この他にも境内には春日造りの末社高良神社本殿と、1間社流造りの末社武内大神本殿に末社比梼O神本殿が点在して建てられおり、以上までの建造物全て国の重要文化財の指定を受けています。室町後期に建造された鐘楼は神仏習合の名残を示すもので、これだけ県の重要文化財の指定。

  



 「大井俣窪八幡神社」
   〒405-0041 山梨県山梨市北654
   電話番号 0553-33-6950
   境内自由