興風会館 (こうふうかいかん) 登録有形文化財



 業界最大手の醤油メーカーはキッコーマンですが、その本社があるのは創業地の千葉県野田市。市中心部の醤油プラント工場が林立する中に位置するのがキッコーマン本社なのですが、そのお隣にちょっと一風変わった洋風建築が聳えています。ガラス張りの近代的な本社屋と対比する様な、ピンクのシャトー風というまるでラブホのような外観を持つこの建物は、「興風会館」という名のキッコーマンが戦前に建造した従業員向けの福利厚生施設です。現在も公益財団法人興風会が管理運営を行っており、様々なイベント事業に活用されています。

 

 運営している興風会は1928年(昭和3年)に昭和天皇即位を記念して設立された団体で、翌年にこの興風会館が竣工しています。当時は戦前最長の労働争議だった野田大労働争議があった頃で、いつまでも封建的な会社経営では支障をきたす時代となり、経営者側が社会教育事業の一環としてこの興風会館を建造したようです。このあたりは諏訪の片倉工業が片倉館を造った経緯と似ていますね。ロシア革命の直後ですし。
 鉄筋コンクリート造4階建てで、建築面積は527u。設計を担当したのは大森茂で、神田駿河台の明治大学旧校舎や目白台の細川護立邸を手がけており、装飾性の豊かなデザインで知られる建築家です。ここでも塔屋の破風や半円アーチ窓に階段状の縁飾りや丸窓等、ロマネスク様式が随所に加味された重厚な外観を見せています。

 

  

 内部は数度の改修を経ているので、竣工当時の面影を留めている箇所は多くなく、例えば二階の応接室は壁が取り払われて階段部と一体化しホワイエとして使われています。但し壁面には当時流行のアールデコ調の暖炉が残り、天井にも同様の趣向のシャンデリアが吊り下がります。応接室時代の名残です。

 

 

 この応接室の対面に位置するのが大集会室。二階から四階まで大きく吹きぬけたホール形式で、天井は貼り替えられてありますがほぼ竣工当時の姿を留めている大空間です。座席数は652席あり、現役でコンサートや演劇・講演に使われています。

 

 

 一間シンプルに見えますが細部は装飾性が豊かで、二階席手摺下の石膏のレリーフや天井の照明器具、演壇の階段状の縁飾りに螺旋階段等、凝った意匠が随所に散りばめられています。社会教育事業の施設ですからあまり派手な装飾は避けられたようで、控え目ながら優雅な印象を与える空間が造られたようですね。

 

  

 3階には和室もあり、花頭窓付きの床もある大広間となっていて、ここで今でも茶道・華道・書道等の御稽古に使われています。他にも食堂・卓球室・撞球室・娯楽室等があったようですが、今はありません。おそらくかつてキッコーマンの社員達が、ここで仕事の後の疲れを様々なリクリエーションで癒していたのでしょうね。今時そんな話は無理ですけれど。国登録有形文化財指定。

 



 「興風会館」
  〒278-0037 千葉県野田市野田250
  電話番号 04-7122-2191