機那サフラン酒本舗 (きなサフランしゅほんぽ) 登録有形文化財



 長岡市内のJR宮内駅近くに摂田屋地区という醸造メーカーが密集する地域があります。明治期以前の歴史の長い酒造業者や醤油・味噌の醸造メーカーが街角に点在しており、中には室町期まで創業が遡る酒蔵もあるほど。空襲が無かったこともあって戦前の古い建築物が集中する地区で、国の登録有形文化財に指定されている町家や蔵が全部で7件もあります。「吉乃川」の蔦の絡まった蔵も見応えがありますが、その対面にある「機那サフラン酒本舗」の建物群も重量感たっぷりの迫力のある建物で、特に帳場蔵が一番の見物。

 

 サンフラン酒とは16種類の生薬の煎じ液にサフランを混入させた薬用酒で、まあ養命酒みたいなものですね。これを発明したのが幕末生まれの初代吉沢似太郎で、明治期に販売してこれが大ヒット、瞬く間に莫大な収益を上げ大地主となり、二代目は宮内町町長から衆議院議員になるなど大成功を収めた一族でした。本人は質素な生活を好んだようですが、そのありあまる私財を注ぎ込んだのが自邸の建築で、いわゆる普請道楽。約二千三百坪の広大な敷地に主屋や離れ座敷に蔵を並べて庭園を造成しており、そのいずれもがちょっと一般的でないかなりユニークな物件ばかりで、独創的で摩訶不思議な景観を放っています。
 まるで寺社の庫裏か銭湯を彷彿とさせる巨大な破風屋根の主屋も目を惹きますが、その隣にある帳場蔵はさらにその上を行く奇抜な建物で、外壁到る所に極彩色の鏝絵が施されています。

 

 この蔵が建造されたのは1926年(大正十五年)のこと。この頃に家業がピークだった模様で、このようなド派手な蔵をわざわざ目立つ場所に建てたようですね。外観の基本は屋根が切妻造りの桟瓦葺による二階建てで、大きさは桁行五間奥行三間に、基礎は石積みで腰を海鼠壁とする類型的な土蔵です。これをベースに夥しい数の鏝絵が彩るわけですが、その図案は十二支や七福神に鳳凰・麒麟・龍などの縁起物が中心で、日光東照宮・歓喜院聖天堂・榛名神社・妙義神社・大前神社など北関東に多い極彩色の装飾性が強い建造物と共通しており、また蔵を装飾する手法は東北地方に数多く見られることから、その双方に近い地域性も反映しているのかもしれません。
 鏝絵を手掛けたのは近所に住む左官の河上伊吉で、鏝絵で有名な伊豆の長八とは直接関係が無いようで、またその作風も少し違うようです。国登録有形文化財指定。

 

 

  

 内部は一・二階とも一室で、野太い自然木を梁に渡して重厚な屋根を支えます。昭和の高度成長期のポスターが展示してあり、近在の越路町出身の三波春夫が起用されています。

 

 主屋の南側に隣接する「衣装蔵」も同様に鏝絵が施されていますが、こちらは修復されていないので剥落が激しいです。さらにその奥に建つ「離れ座敷」は1931年(昭和六年)に建造された木造二階建ての近代和風建築で、全国から銘木を取り寄せて組み上げた数寄屋風の座敷が並びます。こちらも修復されていないのでちょっと荒れ気味。

 

 

 この「離れ座敷」の前に広がるのが庭園。池泉回遊式の庭園ですが、池の周囲に溶岩がテンコ盛りに積み上げられたとても奇妙な眺め。浅間山の鬼押し出しから運び込んだそうで、噴水やトンネルも造られています。上信越国境地帯は地質の関係なのかとても複雑な形状の山並みがあり、妙義山や八海山に海谷山塊などこのように奇怪な山嶺が数多く見られます。このあたりにも反映されているのでしょうかね。

 



 「機那サフラン酒本舗」
  〒940-1105 新潟県長岡市摂田屋4-8-12
  電話番号 0258-35-3000
  通常非公開 週末に公開あり