加悦 (かや)



 夏場は平日でも大勢の観光客で賑わいを見せる日本三景の天橋立も、その先の丹後半島方面へ向かうとグッと人出は減って、潮風に吹かれながら天橋立が横たわる姿を静かに車窓から眺めることが出来ます。第三セクターの北近畿タンゴ鉄道は舞鶴から丹後半島の付け根を抜けて豊岡・城崎温泉方面へ向かう地方ローカル線で、天橋立に琴引浜の網野や夕日ヶ浦の木津温泉など風光明媚な景勝地を縫って進む、車窓に広がる風景がとても美しい路線。そんな車窓の風景を楽しんでもらいたいのか、窓の大きいワイドビューのタンゴリレー号が運行中です。

 

 天橋立駅から豊岡方面に乗って二つ目の駅が野田川駅。旧国鉄時代は宮津線の丹後山田駅だった駅で、なおかつ1985年(昭和60年)5月1日に廃線となったローカル私鉄の加悦鉄道の始発駅でもありました。今では周囲は長閑に田畑が広がる田舎駅ですが、その昔は近在の中心地として大変な盛況を見せていたようです。
 駅舎の奥に資料室コーナーがあり、写真パネルや時刻表等で往時の姿が紹介されています。

 

 

 この野田川駅から南方向は、山間に囲まれた広い谷となっており、その谷の奥に向かって加悦鉄道が伸ばされていました。この谷合は加悦谷と呼ばれる与謝蕪村や与謝野鉄幹・晶子夫婦ゆかりの与謝の里にあたり、現在はこの野田川周辺も含めて与謝野町となっています。
 その廃線になった加悦鉄道の軌道跡は現在サイクリングロードに転身されているので、野田川駅のレンタサイクルで廃線巡りも可能。全長は約8Kmあるので、往復するとだいたい2時間ぐらい。信号も無いので楽に進めます。終点にはSLや全国から集められた古車輛が展示された加悦SL広場もあるので、鉄っちゃんにはお薦め。
 そのサイクリングロードのだいたい中間地点にあるのが加悦駅舎。戦前に建てられた木造二階建ての洒落た洋館で、内部は資料館として土日祝日に公開中。

 

 

 この旧加悦駅のある周辺が旧加悦町の中心地点で、旧町役場や学校などの公共施設が集中しています。ちなみに加悦は、”かや”と読みます。
 この加悦地区は昭和中期まで丹後ちりめんの主要生産地として繁栄した場所で、この加悦鉄道もその縮緬輸送の為に敷設されたものです。その活況ぶりは地区のあちこちに見られる豪壮な御屋敷やレトロな洋風建築に見ることが出来、こんな不便な場所に何故このような洋館があるの?と疑問に思うほど。
 旧町役場も1929年(昭和4年)に建てられた洋風建築で、現在は観光協会が入ってます。ここでもレンタサイクルあり。

 

 この旧町役場前には野田川方面から福知山方面へと抜けて京都・大阪へ至る旧街道が走っており、その旧街道沿いに南へ500m程の区間に古民家や縮緬工場等が密集して建てられています。別名「ちりめん街道」として知られるこの街並みは、約260棟ある建物のうち半分近くの約120棟が江戸・明治・昭和初期にまで遡るほどの歴史の古さを誇り、その保存状況も良いことから製職町として国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれています。
 格子窓や卯建を上げた商家や、重厚な白漆喰の大壁造りの縮緬工場に、旅館・病院・銀行・酒蔵等の往時の活況ぶりがうかがわれる物件がそのまま残されており、今でも実際に住居として使用されているようです。昭和30年代までは地場産業として活気があったようですが、その後は安い人件費の中国産に完膚なきまでに叩かれてすっかり寂れ、しかも日本列島改造論の開発の波もこの僻地には波及しなかったようで、その昭和30年代で時間が止まりフリーズドライ化したこの街並みが、今になって貴重な文化遺産として再評価されて観光資源となったということなのでしょう。何が幸いするか世の中わからないものです。

 

 

 

 殆どの家屋が現在も使用中なので内部は殆ど非公開ですが、街並みの中心部の旧町長の自宅だった尾藤家住宅だけは内部も公開されています。部屋数が15室もある豪邸で、リッチな洋館もあります。ちなみにこの街並みに洋風建築が多いのは、この尾藤町長の趣味。

 

 街並みの一番南側にも瀟洒な洋風建築があり、こちらは伊藤医院の診療所。玄関周りの凝ったデザインの漆喰レリーフが見所です。

 

 その一方で当地はもともと桃山期に城下町として整備されたことから、町の区割りが城下町特有のクランク状になっており、その曲折部には防御の為にか高く土を持って寺社を並べています。また北側と東側には川を掘割のように流しており、いざとなったら橋を落として防戦するつもりなのでしょう。このようにグランドデザインに中世の城下町の名残を、細部は近世の製職町の姿を残し、近代レトロ建築も加味された、中々面白い街並みが見られる場所です。

 

 



 「旧加悦鉄道加悦駅舎(加悦鉄道資料館)」
   〒629-2403 京都府与謝郡与謝野町加悦433
   電話番号 0772-43-0232
   開館時間 土・日・祝日 AM9:00〜PM5:00 


 「与謝野町観光協会(旧加悦町役場)」
   〒629-2403 京都府与謝郡与謝野町加悦1060
   電話番号 0772-43-0155