開高健記念館 (かいこうたけしきねんかん)



 文学者にもその作風によって大雑把にジャンル分けが出来、その一つに行動主義と呼ばれる作家達がいます。文字通り自ら行動してある困難な非日常的状況に赴き、その目・耳・口・肌・四股で感じたことに基づいて作品を作り上げる作家達ですが、代表的な作家と言うとアンドレ・マルローやアーネスト・ヘミングウェイ、それに「星の王子様」のサン=テグジュベリあたり。日本で言えば開高健が代名詞的な存在で、後は小田実や立松和平に椎名誠あたりでしょうか。いずれも逞しく男性的なイメージの強い作家ばかりですが、意外と内面は繊細で女性的な感受性の持ち主が多いような気がします。その開高健が晩年を過ごした住居が茅ヶ崎の海岸近くの住宅街にひっそりと残されています。

 

 この家は開高が仕事場として建てたものなのですが、後から妻子が乗り込みいつの間にか住居として使われていたもので、今は茅ヶ崎市に寄贈されて記念館として公開されています。いわゆる男の隠れ場と洒落こんでいたようですが、「女でも引っ張り込んでいるんじゃないの?」と怪しんだ妻子により、男の儚い夢は無に帰したようです。1974年(昭和49年)から没する1989年(平成元年)までの15年をここで暮らし、自伝的長編「耳の物語(破れた繭・夜と陽炎)」や遺作となった「珠玉」等の小説に、「オーパ」等の随筆を書き上げた場所で、特にこの頃になると定評のあった語り口の上手さがさらに洗練されて、壮大なホラ話でも年代物のウイスキーのようなまろやかな読み心地で読者を酔わせてくれました。玄関前には開高の言葉を掘り込んだ石のモニュメントが出迎えてくれます。

 

 内部は入ると広い洋間となり、ここでは常設展で58年の生涯を遺品やパネルなどで展示。隣に小さな企画展示の部屋があり、奥にドアがあってそこを開けてズンズン土足で上がると、そこは酒飲み部屋。分厚い重厚なテーブルに多種多様な酒瓶がぎっしりと並べられ、横にはワインセラーを置き、壁には本で埋まった書棚が据え付けられた、男の隠れ場という奴です。お酒は古巣のサントリーのウイスキーが多いようです。

 

 さらに奥へ進むと、今度は仕事部屋だった書斎。机には愛用のモンブランの万年筆が置かれ、壁には自身が釣り上げたキングサーモンやイトウの剥製が掛けられるという、イメージをそぐわない展開。ここはキッチンやバストイレも独立して備えられているそうで、庭から直接出入り出来る事から母家の妻子に邪魔されずに仕事に遊びに勤しんでいたようです。

 

 その書斎から門までの抜け道は「哲学者の小径」と名付けられ、各場所に開高の残した含蓄のある言葉が掲載されたモニュメントが配されています。元々サントリーの広告部にいたことから、短い言葉でスケールの大きなコピーを作り出すのは天才的。

 

 この開高邸は、サザンオールスターズの「ラチエン通りのシスター」でも知られる、パームツリーが眩いラチエン通り沿いにあり、歩いて数分でサーファーの多い海水浴場。エボシ岩も遠くに見えます。開高自身はもっぱら市民プールに通っていたそうですが・・・。

 



 「開高健記念館」
   〒253-0054 神奈川県茅ヶ崎市東海岸6-6-64
   電話番号 0467-87-0567
   開館時間 4月〜10月 AM10:00〜PM6:00
          11月〜3月 AM10:00〜PM5:00
   休館日 月曜日〜木曜日 祝日は開館 12月29日〜1月3日