門脇家住宅 (かどわきけじゅうたく) 重要文化財



 伯耆大山の麓にあたる日本海側の大山町に、”所子”と呼ばれる小さな集落があります。田畑の広がる長閑な田園地帯の真ん中に、ポツンと島のように甍を並べた民家が密集した地域で、屈曲した路地沿いに黒い土塀が並び重厚な蔵が建つ、まるで時代劇にでも出てきそうな趣のある景観が見られる場所です。その中心にあるのが近在の大庄屋であった門脇家で、この界隈だけでなく山陰地方を代表する豪農屋敷としても知られており、敷地内の建物の大半が国の重要文化財の指定を受けています。ちなみにこの門脇家は本家で、道路を挟んで対面に東門脇家、南側に南門脇家と分家があり、いずれも国登録有形文化財の指定を受けた豪邸群が並ぶ、豪農屋敷街であったりもします。

 

 門脇家は平家の末裔と伝えられており、当地に赴いたのは江戸中期の17世紀後半のこと。18世紀前半には一帯の田畑を所有する大地主となり、1757年(宝暦7年)には三代目当主が大庄屋に任じられ、苗字帯刀を許可されています。現在の屋敷が構えられたのはその12年後の1769年(明和6年)のことで、正門の奥に見える主屋を
中心に米蔵・新蔵・水車小屋・離れ・茶室などの建築物が広い敷地に点在しています。
 門と同様に東面する主屋は、重量感溢れる深く葺き下ろされた茅葺が印象的な規模の大きな住宅建築で、大きさは桁行22.2mに奥行16.5mの広さ。屋根は寄棟造りですが、棟上には海に近いせいでしょう日本海特有の強風への対策として島根県産の来待石が置かれ、軒下の庇には寒さに強いオレンジ色の石州瓦が使われています。この来待石と石州瓦が、煙り出し用にチョコンと乗っかった小屋根と共に、外観の意匠に程良いアクセントとなっています。

 

 

 その大きな屋根を支える為には内部も強靭に構築せざるをえず、天井には太い牛梁を何本も交互に渡し、その組み合わせを上下四段に重ねた上に棟束を立てて屋根裏を乗せる重層構造の梁組となっています。このあたりは山陰地方独特の湿った雪深い土地柄で、屋根の傾斜が深いくなり建ちが高くなっている為にこのような構造体が採用されているのでしょう。
 内部はその豪壮な梁組が見える土間が北側に広がり、南側に整然と座敷が並ぶ構成で、特に全体の2/3は土間を中心とする生活用のスペース。広い土間は二部構成となっていて、途中の格子戸で奥の炊事場とは仕切られており、その炊事場には竈が並んでいます。ちなみに今でも家人はここで暮らしており、この炊事場も使われているようですね。

  

 土間の南側に並ぶ座敷は3X3の9部屋の構成で、後に増築された2部屋が背面に続きます。このうち東側真ん中の部屋が仏間のなのですが式台が付いており、この部屋から矩折りの三部屋が接客用の空間として整えられた座敷が並びます。土間側の部屋からは一段上がる上段の造りとなり、何れの部屋も面皮付きの丸太が嵌った数寄屋風の意匠と変わり、透かしの入った欄間や桃のデザインによる釘隠しなど凝った造作の意匠があちらこちらに見られます。

 

 

 矩折りは鉤状でもあるので、式台から鉤先にあたるのが「かぎのま」。竿縁天井に長押が嵌められ、畳床に違い棚や戸袋も設えられた上質の書院造の座敷で、床の間にはまっさらな白い張り壁を付けて南側には庭園も広がるとても明るい空間です。土間の暗さとは対照的。戸袋の襖は表裏で違う絵が描かれており、また長押には屏風押さえがあって季節ごとに違う屏風を取り付けるとか。藩主が度々立ち寄ったそうなので、その度に意匠替えをして歓待していたのでしょうね。

 

 

 その藩主も喜んだであろう庭園は池泉観賞式で、近くを流れる阿弥陀川の水を引き込んで池を堀り、その周囲に石組や石橋を造り刈込を配した本格的なもの。一地方農家の庭園とはとても思えません。垣根の向こうに借景として見える建物は、お隣の南門脇家の豪邸群。
 この庭園の西側に主屋から付きだす様に湯殿と雪隠があります。藩主向けに設えたもので、これも国重要文化財指定。

 

  

 「かぎのま」手前の「つぎのま」の東側に同様に突きだす様に「離れ」があり、この「離れ」と主屋と結ぶように土塀が並び、反対側には茶室が主屋から延ばされて、この一画が囲まれて露地を形成しています。飛石や石燈籠に蹲踞も置かれた本格的なもので、このあたりも一地方農家のものとは思えません。

 

 

 茶室は三斎流によるもので、外観は桟瓦葺の切妻造り屋根。躙口の上に連子窓を開け、その横手に風炉先用の下地窓が開き、刀掛が吊るされています。内部は三畳に半間床の構成で、赤松の床柱に墨蹟窓があり、床の横に躙口より一回り大きな貴人口も開けられてあります。こちらは「かぎのま」側なので、藩主用なのでしょう。窓が多くと貴人口もあるのでとても明るく開放的な茶室。この茶室も国の重要文化財指定。湯殿・雪隠・茶室は後年に増築されたものと見られており、ブルジョワジーが力を付けた江戸後期に、地方農家にまでこのようなレベルの高い文化が伝播したことの現れなのでしょう。

  

 その他にも、19世紀後半に建造された水車小屋、明治期の米蔵、大正期の新蔵、検査場などが並びます。通常は非公開ですが、毎春秋に1週間程度公開されています。

 



 「門脇家住宅」
  〒689-3303 鳥取県西伯郡大山町所子360
  通常非公開 春秋に特別公開あり