十輪院 (じゅうりんいん) 国宝



 格子造りの町屋が続く風情のある街並を持つ奈良町界隈には、小さなお寺が町屋に溶け込むように点在して建てられています。元々町全域が元興寺の寺域だった場所なので、元興寺衰退後は庶民が移り住んで町屋と寺院がモザイクのようにクロスオーバーした様相になり、どの寺院も肩の力が抜けた敷居の低い庶民的な香りが漂っています。がそんな下町風の大衆的な寺の中でも”只者ではないな”と思わせる佇まいのお寺があります。町の東端にある十輪院がその寺院。やはり元興寺の子院の一つで、鎌倉時代に建造された南門(国重文)の奥に優美な本堂が正面に見えています。

 

 周りは民家に囲まれていて本当に狭い境内なのですが、実はここは文化財の宝庫で、本堂は国宝に、本尊である石仏や仏像に南門・宝蔵が国の重要文化財に指定されていたりと意外と充実した内容です。その国宝に指定されている本堂は鎌倉中期に建立された住宅風の仏堂で、内部に石仏龕を祀る礼堂として建てられたもの。大きさは桁行5間奥行4間に、屋根は本瓦葺きの寄棟造り。床が低く屋根の勾配が緩いことから全体の建ちは低く、こじんまりと品良く収まった印象を与えています。木割を細くし角柱を多用し、正面の中央3間分を蔀戸を嵌めるなど、中世の貴族住宅の趣が強く感じられます。
 正面には奥行1間の吹き放しの広縁が付けられ、広縁の上には民家のせがい造りのような出桁を張り出し、軒回りに美しいシルエットの蟇股が置かれています。あくまでも繊細な意匠に統制されたこの仏堂は、ドイツの高名な建築家ブルーノ・タウトに賞賛されたことでも知られています。

 

 

 境内奥には、宝形造りの御影堂があります。3間四方の江戸前期の建立で県の重要文化財指定。本堂の右手が庭園となり、蓮池の周りに十三重石塔や石仏が点在されています。

 



 「十輪院」
   〒630-8312  奈良市十輪院町27
   電話番号 0742-26-6635
   FAX番号 0742-26-6636
   拝観時間 AM9:00〜PM4:30
   拝観休止日 12月28日〜1月5日 1月27日〜1月28日 8月16日〜8月31日