飯塚邸 (いいづかてい)



 柏崎市郊外の高田地区にある飯塚邸は、近在の大地主を務めた豪農屋敷を公開している施設で、昭和天皇が戦後の全国巡幸の際に宿泊場として供用されたことから、柏崎市の史跡にも指定されています。なんでも二泊して近所の山野を御散策された記録が残されていて、生物学者でもあることから草木を色々と探求されており、確かに国天然記念物指定の大欅やナンジャモンジャの木が生い茂る豊かな植生を持ち、この飯塚邸自体も鬱蒼とした喬木林に覆われていることから、さながら森の御屋敷といった環境がお気に入れられたのでしょうかね?

 

 飯塚家は戦国期の北条氏に仕える武士でしたが、秀吉に敗れた後に越後に逃れて上杉家に仕えるも江戸初期には帰農し、代々地元で庄屋を務めて明治期には戸長となり大地主として君臨した旧家です。約千八百坪の敷地に長屋門・主屋・新座敷棟・茶室・土蔵が点在しており、いずれもグレードの高い上質の住宅建築が建ち並び、その周囲を池泉回遊式の庭園が取り囲む豪邸です。



 表門は切妻屋根の出桁造りによる堂々とした長屋門で、両脇には上手蔵と下手蔵が付随する城郭のような面構え。蔵の中はそれぞれ展示室として飯塚家伝来の美術工芸品が公開されています。

 

 表門の奥に見えるのが主屋。江戸末期の建造ですがその後増築を重ねており、戦後の昭和二十年代に二階部を増築しています。屋根が入母屋造りの桟瓦葺で、ケヤキ材を多く用いた木造二階建て。この飯塚邸が公開を始めたのは2003年(平成十五年)秋からですが、翌年の中越地震で大きな被害が出た為にしばらく閉館し修復が行われ、2006年に公開が再開されましたが今度はまたその翌年に中越沖地震に被災し、再度の修復工事を経て再々公開されたのは2012年のこと。つまり公開されて最初の9年間は殆どが工事中だったという不幸な物件で、その為に以前の公開当時と構造が変更になっている箇所や、公開されていない部分があります。ちなみにこの主屋では二階が閉鎖されて公開していません。

 

 

 内部は座敷部・勝手部・奥茶室・居宅部とに分かれ、この勝手部が以前と大きく異なっています。二階部は撤去され外観のみが復元されており、内部構造は全く別のもの。広さも半分に縮小されており、北半分がありません。正面側から見た外観のみが往時の姿です。近世の住宅建築にしては土間部が見当たらないので、この勝手部が広い土間だったのかもしれません。

 

 この主屋には玄関が二つあり、勝手部用の出入り口の隣に通常時用のが、庭と区分けする板塀に開けられた中門を潜ると立派な式台が造られています。庄屋であり肝煎職を持つ格式の高い家柄ですから、藩の殿様を迎える設備が必要でしょうからね。座敷部内部の「茶の間」には神棚があり、槍が鴨居に掛けられています。

 

 

 式台を入ると正面が八畳の仏間。北陸から越後にかけては浄土真宗の信仰が篤い土地柄なので、ここでも格式の高い仏間が造られています。その隣が十畳の「上座敷」で、付書院窓も付いた書院造の座敷となりここで賓客をもてなします。この二間は周囲を一畳分の入側が十四畳分取り巻くので、襖を取っ払うと三十二畳の大広間としても使えます。

 

 

 特に「上座敷」は庭園の眺めが最高で、軒下の深い庇が庭の風景を程良くトリミングし、大木が多い庭園をまるで劇場の舞台の様にドラマチックに見せています。雪深い土地柄と真夏のフェーン現象による猛暑を解消する為に設けられた庇と、その下の土縁と縁側と入側とによる複合的な空間構成はこの豪邸内での一番のハイライト。

 

 この「上座敷」の隣に「奥茶室」があります。ちなみにもう一つ庭園内に茶室があります。六畳ありますが炉は切られていなので、茶室というよりは接客用の風流な小間といった風情です。

 

 ここから渡り廊下で新座敷棟へ連なります。途中に大正期に造られた居宅部がありますがこちらは非公開。新座敷棟は外観が入母屋造りの桟瓦葺による木造二階建てで、居宅部と同時期の大正期に増築されたものです。主屋が近世の住宅建築を増改築したものに対して、こちらは純然たる近代和風住宅建築で、ケヤキを豊富に採用した長尺材・無節材・巾広材が随所に使われており、各部屋とも贅を凝らした意匠を見ることが出来ます。一階は十畳間が二間並ぶ構成で、土蔵とに囲まれた石灯籠や手水が置かれた静かな佇まいの庭を眺める座敷。

 

 

 二階も十畳間が二間並び、四畳半と三畳の書斎が付く構成で、十畳間の主室は違い棚も付けられた格式の高い書院造の座敷。特にグレードの高い意匠で構成されており、鶴が描かれた襖や欄間に桜花の透かしがある書院窓や円窓など、全体に華やかで優美な印象の座敷です。ここが昭和天皇の寝室として供用され、行在所となった箇所です。

 

 

 

 庭園は築造当初から変わっていないそうで、欅や松の大木が多く植わった池泉回遊式の庭園。木立が深いので仄暗く、少し神秘的な雰囲気もあります。様々なタイプの橋が多く架けられているのも特徴の一つ。昭和天皇から「秋幸苑」の名を賜っています。

 

 

  



 「飯塚邸」
  〒945-1122 新潟県柏崎市大字新道5212-4
  電話番号 0257-20-7120
  開館時間 4月1日〜11月30日 AM9:00〜PM5:00
  休館日 月曜日