伊庭 (いば)



 その昔の第二次世界大戦勃発前は、琵琶湖の東岸に内湖と呼ばれる大小様々な湖が点在していました。それぞれの内湖は琵琶湖と水路で結ばれ、入り組んだ複雑な湖岸線を描くこの地域は漁業や湖上の交易の港としてはうってつけだったようで、信長の安土城も三方はこの内湖に囲まれた山上に築かれたものです。
 ところが戦時中に食糧増産事業の一つとして内湖の干拓が始まり、戦後の昭和40年代には一部を除いて大半は水田に変貌し、往時の姿を残すのは近江八幡にある西ノ湖と伊庭内湖だけになってしまいました。西ノ湖は水郷めぐりとして観光地化されていますが、伊庭内湖は交通の便がすこぶる悪い為にあまり訪れる人は無く、釣り客がブラックバスを狙いに来るぐらいです。湖岸は鬱蒼とした葦原で覆い尽くされ、その周りは延々と干拓された水田が広がるのみで、とても侘しい寂寞とした風景が見られます。

 

 

 でも地元の自治体はこっちも観光資源にしたると言うことなのか、湖畔の一部を園地化して複合型レクリエーション施設の親水公園を整備しています。バブル期の1991年(平成3年)にあの”ふるさと創生事業”により出来たもので、護岸を芝生に植え替えてフィールドアスレチック等が設置されていたりしますが、ここの目玉は巨大水車。この伊庭内湖のある旧能登川町は、古くから精米・製粉に水車を利用していた歴史があり、一時期には39基もの水車が町内で見られたそうですが、1961年(昭和36年)を最後に姿を消してしまった為に、今ここに町のシンボルだった水車を復活させたというわけです。なにしろ一億円のお金ですからデカイのを造ろうという話になり、直径13mと関西一の大きさ。軸の大きさでも2mあり、軸重も5tあります。

 

 

 園内には水車資料館があり、こちらでは直径5mの水車により玄米を持ち込めば無料で精米も行えます。それからカヌーランドとしても営業しており、カヌーやスワンボートが係留されているので、気軽に舟遊びも楽しめます。

 

 元々は湖だった場所を戦時中から干拓した場所ですから民家が殆ど無く、干拓事業を始める前から陸地だった場所がポツンと集落を形成しているだけです。伊庭内湖の東側にある伊庭集落もそんな場所の一つで、町の周辺は青々とした水田が取り囲み、その田圃の中で島の様に集落が浮かび上がる農村の様な町。しかしその昔は伊庭千軒と謳われたこともある、琵琶湖水運による交易で栄えた中世まで遡れる古い歴史を持つ町でもあり、戦前までは漁師町でもありました。その名残は町中の到る所に痕跡を残しており、嘗ての船着場であった集落の西端にある金毘羅神社の常夜塔や、舟板塀による民家等に見ることが出来ます。

 

 

 この集落の最大の特徴は、町中を水路が縦横に巡っていること。漁師町の頃は船は各家の前に係留していたようで、掘割が民家の軒先を隈なく走りまわっています。町並み自体が迷路の様に細い路地が入り組んでいて、その中を水路が巡る為に独特の景観を見せており、古い神社仏閣も多いことからちょっとノスタルジックな雰囲気も漂わせています。

  

 

 民家の前には”カワト”と呼ばれる石段があり、ここで食事の支度や洗濯に風呂の水汲みが行われていました。水は内湖からではなく東側の大同川の水を引いているのでそこそこ綺麗で、大きなフナがウジャウジャ棲んでいます。

 

 集落の東端には金毘羅神社と対するように大浜神社があり、境内に鎌倉期に建造された仁王堂があります。茅葺屋根のとてもプリミティブな外観で、当地を本拠地としていた伊庭氏に纏わる数少ない物件でもあり、県の文化財にも指定されています。

 



 「水車資料館」
  〒521-1235 滋賀県東近江市伊庭町1269
  電話番号 0748-42-3000
  開館時間 AM9:00〜PM4:00
  休館日 月曜日 祝翌日 12月28日〜1月4日