ハンター邸 (ハンターてい) 重要文化財



 神戸の灘駅近くにある王子動物園は関西きっての老舗の動物園で、戦前から阪神間キッズに親しまれたちょいとレトロでノスタルジックなアミューズメント施設。阪神地区らしく海へ向かってなだらかなスロープの続く、南向きの日当たりの良い立地が魅力で、プールや美術館も隣接された市民の憩いの場という感じです。この動物園の一番最奥のこんもりとした木立の中に、ハンター邸という大きな洋館が移築されています。市内北野地区から移築されたもので、4・8・10月に内部公開されています。

 

 このハンター邸はアイルランド出身のイギリス人実業家だったエドワード・ハンターの居宅だった建物で、現在の神戸市中央区北野町3丁目に建てられていたのを、1964年(昭和39年)に動物園内に移築したもの。今でもかつての居宅跡前にはハンター坂の名が残されています。この洋館は神戸市内数ある洋館でも最大規模で、この洋館以外にも和館もあったということから、その敷地の規模も相当なものだった模様。建造は1907年(明治40年)で、他の北野地区の洋館とだいたい同時期のもの。建物の大半は古材を転用しているそうで、元トーアホテル跡近くにあった1889年(明治22年)建造の洋館を買い取り、移築改造した由来があるそうです。国の重要文化財指定。
 建物は一部3階建ての2階建ての木造建築で、屋根は日本最古の石綿スレート葺の寄棟造り。外観は正面に2つの張り出し部を設けて屋根を切妻にし、妻部に円形の排気口を開け、その周りに唐草文様の飾りを付けて美しくデフォルメしています。大きな窓には菱型組子入り引違いガラスを嵌めて、屋根の切妻と調和する幾何学的な意匠を持ち、装飾性をも高めています。

  

 玄関は正面向かって一番左側で、ここだけ頭部に塔屋を載せた3階建て。この玄関部も上部にアーチ型のたれ壁を回し、半円形の欄間を付けた装飾性の強い意匠。

 

 内部は1階が応接間に居間と食堂が並び、2階は家族の居室がそれぞれ並ぶ間取りで、特に1階の居間と食堂は一続きの広間として使えるユーティリティな造り。この居間と食堂との境には頭にブロークン・ぺディメントと呼ばれる特徴のある欠きがあり、ルネッサンス後期に流行した装飾様式の一つで、重厚な趣を醸し出しています。居間の腰板にはエリザベス朝風の幾何学的パネルが嵌められていて、壁の白漆喰とのコントラストも良く、やはり重厚な印象を部屋に与えています。シャンデリアも中々凝った造形です。

 

 

 廊下や階段部も白漆喰の壁と幾何学模様の腰板による、居間と同傾向の重厚な意匠で、階段部入り口にコリント式小角柱を立てその間をハート型アーチをのせる、やはり装飾性の強い意匠。踊り場の窓には草花文様のガラスが嵌っていて、これはイギリスから輸入されたものとか。

  

 2階は家族の寝室が南向きに4つ直列に並び、それぞれ1階の重厚な意匠とは違う明るく瀟洒なお部屋。各部屋ともマントルピースが設えてあります。

 

 この建物で最も目を引くのは南面から東面にL字形に回されたベランダ部。今はガラス窓が入ったサンルーム状態ですが、元は吹き放しのコロニアルスタイルの洋館に後からガラスを嵌めたようで、けっこう凹凸の多い平面です。さすがに泰西地域と違い雪も降ったりするので、このような二重構造のスタイルになったのでしょう。

 



 「神戸市立王子動物園」
   〒657-0838 兵庫県神戸市灘区王子町3-1
   電話番号 078-861-5624
   開園時間 3月〜10月 AM9:00〜PM5:00
         11月〜2月 AM9:00〜PM4:30
   休園日 水曜日 12月29日〜1月1日