正福寺地蔵堂 (しょうふくじじぞうどう) 国宝



 国宝建造物は西日本に集中していて、東日本、特に関東は非常に少なく、世界遺産である日光の二社一寺以外は禅宗である臨済宗の鎌倉の円覚寺舎利殿と東村山の正福寺地蔵堂の二つのみ。この二つの仏堂は双子のようによく似ていて、同じ様式の山梨の清白寺仏殿も含めて建立時期が同じ時期のことから、鎌倉期に鎌倉を中心とした関東一体にこのような禅宗仏堂が多く造られたことの証しと思われます。この正福寺のある東村山は東京都下の多摩地区でもあまり開発の進まない地区で、駅近くまで畑と雑木林が広がり、「となりのトトロ」のモデルになった八国山緑地もあり、うどんが名物というとても長閑でカントリーな町。街外れの畑のそばの正福寺も、周りに塀もなく国宝があるとは思えないほどごく普通のお寺です。

 

 正福寺は鎌倉期の1278年(弘安元年)に開基された古刹で、時の執権北条時宗により開創された謂れを持つ寺院です。国宝に指定されている地蔵堂は、室町期の1407年(応永14年)に建造された典型的な禅宗様建築で、屋根の反りが印象的な小規模な仏堂。外観は大きさ方3間で屋根は入母屋造りの柿葺きに裳階付き。以前は茅葺きだったそうですが、戦前の昭和初期に今の姿に変わった模様です。

 

 外観で特に眼を引くのは、桟唐戸や花頭窓、それに弓欄間や扇垂木に細かな詰組みなど、禅宗様の大きな特徴であるその装飾性で、正面の出入り口が花頭形になり、花頭窓の左右の額縁が直線なのは禅宗様でも古い形式を示したもの。さらに鳥の嘴の様に反り返った屋根の軒先は扇垂木なのに対して、銅板の裳階は平行繁垂木と対照的なスタイルです。

 

 

 普段は内部非公開なのですが、毎年8月8日・9月24日・11月3日の年3日ほど内部公開されます。内部は土間に柱を等間隔で立てて、海老虹梁を前面に架けて中央に須彌檀を置く禅宗仏殿の典型的な構成ですが、特に天井部の構造が優れていて、身舎柱と来迎柱に大虹梁を架け、その上に大瓶束を嵌めて頭貫と台輪を組み、二手先の組物をぎっしりと配置し鏡天井を張った、非常に繊細な印象を持つ建物です。禅宗様はあまり大きな仏堂を造らない傾向があり、この地蔵堂もこの小ささがこのような華奢で精緻な建物が建てられる理由であり、密教寺院のように構造を巧妙に隠すのではなく、構造自体をいかに美しく見せるかにポイントがある禅宗様ならではの、ハイテクスケルトンな現代にも通ずる建物です。

 

 

 土間に並べられる柱は何れも固定されておらず、礎石の上にのっかっているだけ。地震の多い関東で長い間倒壊せずにこれたのは、五重塔同様にガタがあったほうが振動が緩衝されて大事には至らないみたいです。花頭窓や弓欄間から差し込む外光は淡く制限されて、礼拝堂のステンドグラスのように土間を柔らかい光で包み込みます。

 



 「正福寺」
   〒189-0022 東京都東村山市野口町4-6-1
   電話番号 0472-391-0460
   拝観時間 境内自由 内部は8月8日・9月24日・11月3日に公開