宝山寺獅子閣 (ほうざんじししかく) 重要文化財



 生駒山の中腹にある宝山寺はちょいとばかりと不思議なテイストを持つお寺。まず山頂の遊園地へ向かうラブリーでファンシーな犬猫ケーブルカーに乗り、駅前から続く宿坊や飲み屋に生駒新地で知られる風俗旅館を過ぎて、両脇にびっしりと石灯籠が並ぶ長い石段を登ると今度は鳥居が登場し、石切り場のような断崖絶壁にへばりつく様に諸堂が所狭しと建ち並ぶ山内に到着します。本尊は不動明王ですが歓喜天を祀ることから現世利益の商売繁盛祈願に訪れる生臭い参拝客で賑わうお寺で、UFOの目撃情報も多数あるミステリースポットらしく山岳密教に神仏習合が加わったなんでもありありの雰囲気。
 そんなユーアーウェルカム状態のお寺なので、”洋風建築があってもええやろ”ということか、山内の一角に一風変わった洋館があったりします。「獅子閣」と呼ばれる擬洋風建築で、客殿として建てられたもの。国の重要文化財に指定されています。

 

 この風変わりな建物を思いついたのは当時の住職だった乗空和尚で、出入りの宮大工だった吉村松太郎に依頼し、1882年(明治15年)に上棟し2年後に完成した建物です。先に完成した聖天堂の出来が良かったことから腕を見込んで頼んだようで、わざわざ横浜へ3年間も洋風建築の修行に行かせていたとか。
 擬洋風建築は宮大工が見よう見まねで設計し施工する日本独特の建築様式ですが、ここでも和洋ゴッタ煮の折衷様式となっており、外観は洋風ですが屋根は寄棟造の桟瓦葺と仏堂のような造りで、南面は崖上に懸崖造となり京都の清水寺と同じ工法です。

  

 内部も一階の玄関奥の一部屋のみが洋間で、あとは二階も含めて全て和室が並びます。どちらかというと伝統的な日本建築に洋風が混入したと言える意匠で、やはり寺院の客殿としては外面は洋風でも内部は正統的な座敷が並ぶ方が使い勝手が良いのでしょう。
 その唯一の洋間は、天井が布張りに壁は白漆喰の磨き仕上げで、出入口の扉と半円の窓には4色によるステンドグラスが嵌められています。玄関ホールとして機能している部屋ですが、例えば寺院における方丈・書院・客殿の住宅建築においての玄関奥の板の間の廊下部にあたるので、同じ板の間の意匠が洋風に変わっただけと言えるのかもしれません。
 この部屋で異色なのは二階へ上がる為の螺旋階段。明治初期の洋風建築ではわりとよく見られるものですが、すぐ隣に座敷が並ぶこの空間ではかなり唐突な印象。しかも異様に造りが丁寧で、その構造も外周に支柱が無く最上段と最下段以外は柱に組みこまれて宙に浮いており、まるで美術工芸品のような精緻で繊細な意匠は、その特異性を増しています。

 

  

 この洋間の南側は崖上のベランダとなり、二階にも同様にあります。また玄関ポーチにもベランダがあります。このベランダ部は洋風の意匠が強い箇所で、バロック調の手摺子に鎧戸の付いた窓、それに柱頭には菊の葉の紋様の飾りが付いた構成。天井には当時はまだ珍しかった洋釘の頭も見えています。
 ここからは眼下に奈良盆地の素晴らしい眺望が広がります。それを目的にした建物だったのかもしれません。

  

  

 内部の大半を占める和室の座敷は一階が6畳と6畳半、二階が10畳間が二つ並ぶ構成。一階は住職が金春流の能楽を嗜んでいたそうで、能の演目が俵屋宗達の「舞楽図」のように襖に描かれています。茶室としても使えそうですが、この奥に別棟で茶室があるそうなので、寄付として使われているようです。
 ここで異色なのは天井の桟が床指しになっている点と、窓が洋風のままであること。能と洋窓が真正面に向き合う、この建物で最も奇異な空間でしょう。

 

 いっぽう二階は、高い格天井に金紙を貼った壁、黒壇や紫檀による違い棚も設えた正統的な書院造の座敷。こちらは山水画や花鳥画が襖に描かれており、また釘隠しも上下で二種類使われるなど、豪華で格調の高い空間です。
 擬洋風と言っても外観と玄関ホールに洋風建築の様式が採用されているだけで、このように内部空間の大半は伝統的な和風建築で組まれている建物です。

 

  



 「宝山寺」
   〒630-0026 奈良県生駒市門前町1-1
   電話番号 0743-73-2006
   拝観時間 山内自由 獅子閣は非公開 まれに特別公開あり