北大植物園博物館 (ほくだいしょくぶつえんはくぶつかん) 重要文化財



 札幌駅の程近く、何時でも観光客で賑わいを見せている北海道庁の旧本庁舎のその真後ろに、何時でもひっそりと静寂と深閑に包まれた北大の植物園があります。正式名称が北海道大学北方生物園フィールド科学センター植物園とやたらと長いこの施設は、植物園としては日本で二番目に古く、近代的植物園としては最も古く開園されたもので、以前は農学部の付属植物園でした。元々は1882年(明治15年)に北海道開拓使が道庁の西側の原生林を牧羊場とし、その一画に博物館を建設したのが始まりで、その後開拓使が廃止になり1884年(明治17年)に札幌農学校(現在の北大)へ移管されて、1886年(明治19年)に植物園として開園した歴史を持ちます。その敷地は13万3000u(約1万3800坪)と広大なもので、ハルニレやブナの巨木群がほの暗く鬱蒼と生い茂り、都心とは思えないほどの神秘的な原始性を残しています。シマリスやエゾリス達が遊ぶ姿も見受けられますが、近年まではキタキツネも暮らしていたそうです。そんな緑陰濃い植物園の中央部に、創設当時に建造された博物館群がそのままの姿で残されており、博物館は今でもその役目を担っています。

 

 博物館自体はここがスタートではなく、1878年(明治10年)に現在の北大キャンパスの南にあった偕楽園と呼ばれる公園内に「札幌仮博物場」として開設されたのが始まりで、当初は産業資料や文化資料を展示公開する見本市的な施設だったようです。その後手狭になったことから新館を増設することになり、今の場所に博物館が建設された理由なのですが、北大に移管後は純粋に科学分野の学術・教育目的の博物館として使用されています。東側の正門を入って園路を進み、ハルニレやミズナラの樹林帯を抜けると、ポカンと開けた芝地の上に博物館と関連施設の建物群が建てられており、この内一番右側の博物館本館だけ見学が出来ます。これらの建物が建ち並ぶ風景は、周囲に高いビルやマンションが無いこともあってか開設当初の面影を残しているようで、戦前の近代化していく日本の光景を留めるものとして、映画やドラマのロケ地としてうってつけなのでは?

 

 博物館本館は1882年(明治15年)に建設された道内で一番古い博物館で、現役の博物館建築としても本国最古のものです。木造二階建ての洋風建築で、設計はボストンの建築家ベートマンに原案を依頼したようなのですが、設計図が現存せず資料も無いことから不明な点が多いとのこと。明治初期の洋風建築らしくシンプルな下見板張りですが、博物館というよりは教会を思わせるものがあり、かなり異色な外観です。設計依頼の際に何か手違いでもあって博物館と教会を勘違いしていたとか、そんなエピソードでもあったのではないのでしょうか?国の重要文化財指定。

 

 外観では正面の意匠に特徴があり、玄関ポーチの軒先を破風にした片流れの屋根や、軒下の繰形による持送りに、随所に見られる開拓使の紋章である星型などが見所。他の箇所が下手すると山小屋風の簡素な意匠の分だけに、このエリアの凝った意匠は際立っています。

  

 内部は一階二階ともに回廊風の平面で構成されており、玄関入ってすぐ左右裏手に階段があります(二階は非公開)。建築当初から展示ケースと一体化されて設計されており、「北方圏動物・哺乳類鳥類の剥製標本の蒐集と保存」が主旨目的の観点から、ヒグマやエゾオオカミ等の剥製が展示されています。一番奥には南極物語で有名な樺太犬タロの剥製もあり、南極から帰国後この植物園で飼われていたことがその由来。ちなみに相棒ジロの剥製は、東京上野の国立科学博物館にあります。

 

 博物館本館の西側に芝生を挟んで博物館事務所があります。本館よりも建造は遅く1901年(明治34年)に竣工されたもので、設計は文部省技師だった中條精一郎氏。ちょうどこの時期に札幌農学校が時計台近辺からお引越しで今の北大キャンパスが築かれた頃で、やはり同氏によって次々と建物が設計され建造されたことから、この事務所も新築された模様です。北大キャンパスに現存する教室棟と共通性が見られるようで、道内では珍しい瓦の屋根に、基礎を煉瓦積みにするなど質実剛健な造り。国の重要文化財の指定を受けています。この事務所の北側には木造の便所があり、これも国の重要文化財の指定。1903年(明治36年)に今の北大キャンパス内に建てられていたものを、1918年(大正7年)に移築したもので、男女兼用の水洗式。今でも使用可能で、国重文のトイレで用を足すことも出来るというわけです。

 

 事務所の西側には鳥舎があり、これは孔雀飼育用の施設。前面の鉄パイプで仕切られたスペースは運動場で、奥の木造の建物が寝室ということになり、櫛型の明り窓が印象的な外観です。1924年(大正13年)に竣工された建物で、国の重要文化財指定。

 

 鳥舎の北側には木造二階建ての倉庫があります。この建物は1885年(明治18年)に北大移管後すぐに建造された施設で、標本保管用の収蔵庫として使われていました。山小屋風のマンサード屋根の外観に特徴がありますが、当初は柿葺の屋根だったとか。これも国の重要文化財指定。

 

 少し場所は変わりますが正門脇には1911年(明治44年)に建造された門衛所もあります。当時は植物園の一般公開がスタートした頃なので、門番が必要になったのでしょう。実は今でも現役で使用されており、内部は畳敷きの座敷となっています。これまた国の重要文化財指定。

 

 博物館本館と便所との間に挟まれるようにして、バチェラー記念館と呼ばれる洋館があります。アイヌ文化の研究者であった英国人バチェラー博士の邸宅を移築したもので、1898年(明治31年)に竣工されたシンプルな住宅建築です。これは国の登録有形文化財の指定。それから正門を入って北へ進む園路を取ると最初に現れるのが宮部金吾記念館で、植物園の創設者で初代園長だった宮部金吾博士の業績や遺品を展示公開する施設なのですが、元々は北大の前身である札幌農学校の1901年(明治34年)に竣工された動植物学教室の半分を移築したものであり、事務所同様に中條精一郎の手による作品。これも国の登録有形文化財に指定されています。

 



 「北海道大学北方生物園フィールド科学センター植物園」
   〒060-0003 北海道札幌市中央区北3条西8丁目
   電話番号 011-221-0066
   FAX番号 011-221-0664
   開園時間 4月29日〜9月30日 AM9:00〜PM4:30
         10月1日〜11月3日 AM9:00〜PM4:00
   休園日 月曜日(祝日は翌日) 冬季は温室のみ開館