広島市現代美術館(ひろしましげんだいびじゅつかん)



 最近は金沢や十和田に瀬戸内の島々あたりでコンテンポラリーアートの充実した美術館が沢山出来ましたが、その昔は現代美術専門の施設というと本当に数少なく、東京大崎の原美術館が目立つ程度でした。サブカル的なポップカルチャーの台頭により状況が大きく変化して、町おこし的な意味も含めて集客力の見込める施設として各地で次々と誕生しているのでしょうけれど、その先鞭を切る様な形で1989年(平成元年)にスタートしたのが広島市現代美術館。バブル絶頂期の大型箱モノ公共事業でもあるのですが、公立初の現代美術館の意味合いは大きく、後発のあざとい魂胆が見えるようなものとは違ってヒロシマならではの社会性・ポリティカルなものが感じられる施設となっている点が、この美術館の特徴であり魅力でもあります。
 場所は広島市中心部の比治山公園の小高い丘にあり、麓からは一汗かきますが、江の島エスカーのような比治山スカイウォークがあるのでラクチン。建物は南北に細長く、中心部が広場のように吹き抜けており、南側にエントランスがあります。

 

 

 建物の設計は黒川紀章。時はバブルでしたからメタボリズムの大家の登板となったようですね。ただしこの美術館は丘の上という地理的な条件もあるのでメタボ感は薄いです。まるで古代ギリシャの神殿を思わせるアプローチプラザを中心として、北側が常設展示棟、南側が企画展示棟となる構成で、そのアプローチプラザの切り欠きは原爆投下の方向を示しており、また柱の下に被爆石が使われるなど、この美術館に共通する一つのトーンに沿った意匠です。

  

 

 展示のテーマは三つあり、「第二次世界大戦以降の現代美術」「ヒロシマと現代美術」「将来性ある若手作家」。特にヒロシマに関しては常設の第二展示室を専用に設けており、サムフランシスやナム・ジュン・パイクに池田満寿夫などの国内外のアーティストに依頼して作品を蒐集しています。コレクションはトータルで1500点ほどあるそうなのですが、格差社会の影響か地方財政悪化で2006年以降は購入が出来ないようで、作家の寄贈に頼っているのが現状だとか。一番皺寄せが来るのは文化予算で、箱モノ造ったら後は知らないという土建屋国家体制が、笹子トンネルの悲劇を産み出すのでしょうけれど。
 ユニークなのが展示室内の階段部分も作品となっていることで、彫刻家の井上武吉による「階段モニュメント@・A」。螺旋階段の中心部が貝の様に渦巻き状の塔となっていて、その真上が天窓となっている建築家とのコラボ作品です。

  

 

 建物の周囲には数多くの野外彫刻が点在していますが、特に重要なのがアプローチプラザ階段前の広場にあるヘンリー・ムーア作の「アーチ」。1960年代に制作された作品なのですが、この広場は爆心地の方向に向いており、アーチの向こうに原爆ドームがあるわけで、原爆平和記念公園の丹下健三設計のモニュメントと同様の趣旨なのでしょう。

  

 



 「広島市現代美術館」
  〒732-0815 広島県広島市南区比治山公園1-1
  電話番号 082-264-1121
  開館時間 AM10:00〜PM5:00
  休館日 月曜日 年末年始