旧平野家住宅 (きゅうひらのけじゅうたく) 千葉県指定有形文化財



 今では「房総のむら」に統合された房総風土記の丘は、古墳群の中に歴史的建造物が移築されたユニークな野外博物館で、近代建築の学習院初等科正堂と二棟の茅葺古民家が、北総丘陵に広がる起伏のある雑木林内に移築されています。特に古民家二棟は周囲の環境に違和感なく混じりあって、美しい里山の風景が再現されています。
 国重文に指定されている旧御子神家住宅と共に移築されたのは旧平野家住宅で、富津市内の亀沢地区にあった名主の居宅です。傾斜のきつい大型の茅葺屋根が印象的な古民家で、こちらは千葉県の有形文化財に指定されています。

 

 平野家は江戸期には代々名主を務めた豪農で、この居宅が建造されたのは江戸中期の1751年(寛延4年)のこと。桁行十間奥行五間の大きさは県内の民家としては最大規模で、寄棟造りの茅葺屋根が深く葺き下ろされて、堂々とした重量感のある外観を見せています。名主ですから格式の高さも示す必要があり、正面左手に式台が設けられて、その箇所だけ茅葺屋根が庇の様に延ばされます。またこの深い屋根を支える為に、軒から出桁の持ち送りが延ばされた”せがい造り”も見られます。式台横の格子窓も含めて豪農屋敷としての風格ある意匠が見られます。

 

 

 内部は木戸口のある正面右手に土間があり、板敷きの広い「チャノマ」と「ナンド」・「仏間」が並び、一番左側の式台奥に「ハチジョウ」「オク」の座敷二間が並ぶ構成。土間の上部には二階があり、「チャノマ」から階段で上がられる構造で、土間内には竈や「オカッテ」の板の間があります。他の地域の名主クラスの豪農建築に比べるとこの土間は比較的狭く、悪天候の際には作業場としても使う為に広い空間を持つ傾向が多い日本海側や東北の農家とは大分異なります。

 

 

 床上の「チャノマ」は桁行四間半奥行三間の大空間で、中央に囲炉裏が切られています。その囲炉裏の横には天井の小屋梁を受ける独立柱が立ち、その上の屋根裏には大きく深い屋根を支える為の豪壮な梁組が見られます。野太い部材を複雑に組み合わせて力感溢れる構造を見せ、床上の広い空間を支えています。これだけ広い空間が必要だったのは、寄合の会議場として使われたのでは。

 

 

 式台から直列に続く座敷部は名主としての接客空間で、ここで代官様と対面していたのでしょう。長押が嵌められ釘隠しが打たれ、欄間には細かな紋様が彫り込まれて竿縁天井も張られており、特に八畳間の「オク」には床の間や付書院も設けられた格式高い端正な書院造の座敷となります。豪農屋敷としてのグレードの高さを示す空間です。

 



 「千葉県立房総のむら」
  〒270-1506 千葉県印旛郡栄町龍角寺1028
  電話番号 0476-95-3333
  開館時間 AM9:00〜PM4:30
  休館日 月曜日 12月25日〜1月1日