林国蔵邸 (はやしくにぞうてい) 重要文化財



 昔々シルクの国だった信州岡谷、戦前の日本の外貨獲得の主戦力だった絹糸は、この諏訪湖のほとりの小さな町が主戦生産地でした。当時の全国の絹の生産量の3分の1を占めていたということから往時の活況振りが偲ばれます。そんなエースも戦後は中国の安い人件費には勝てず見る見るうちに衰退、変わって精密工業に力を注ぐも(ヤシカ・チノン)あえなく討ち死に、今では人口5万人程のちっぽけな一地方都市に変貌し、駅前ビルのテナントもガラガラの寂しい町となってしまいました。ただ町のあちこちにはかつての工場跡や倉庫があり、シルクで賑わいをみせた名残が遺されています。また岡谷駅近く住宅街には、当地の製糸業の実業家だった林国蔵の邸宅があり公開されています。

 

 林国蔵は岡谷三大製糸家の一人と呼ばれた実業家で、製糸業の他に火薬製造で一山当てて事業をさらに拡大し、東京の日本橋にビルを構える程に成功した人物。この邸宅は明治30年頃から40年までに建造されたもので、主屋・離れ・洋館・内蔵・穀蔵・味噌蔵・外蔵が立ち並ぶ豪壮な屋敷群となり、国の重要文化財に指定されています。主屋は木造二階建ての屋根は桟瓦葺きで、明治40年頃に建造されたもの。ボリュームたっぷりの重量感溢れる外観です。

 

 なんでも林家はこの家を建てたあとに、製糸業の権利を片倉家に売って火薬製造にシフトし、一家揃って日本橋に移った為にこの家には殆ど住んでいない模様。いわば別邸状態で、そのおかげかあまり痛まずに今日まで良い状態で残されていたとのこと。主屋は各部屋とも数寄屋風の書院造りで、屋久杉や木曽檜などの名木をふんだんに使った良質の純和風建築。

 

 特筆すべき点として欄間や床の間の狆潜りや仏壇等の彫刻にあり、氏子である諏訪大社に見られるような高い技量による透かし彫りや凝った彫刻が様々な箇所で見ることが出来ます。諏訪大社の下社春宮と同じく大隈流の職人に手によるものとか。
 主屋の南側は中庭となり、綺麗に刈り込まれた植木の向こうに離れが見えます。庭に面した廊下には、鴨居の上に糸車を模した欄間があり、こちらは家業にちなんだ意匠。

 

 

 渡り廊下で繋がる離れは土蔵造りの二階建てで、明治30年頃に建造されたことから主屋よりも早く建てられました。ここはこの林国蔵邸の最大の見所スポット。一階はまあ主屋同様の名木を使った数寄屋風の佇まいですが、西壁の一番右手の襖を開けると実は忍者屋敷のように隠し階段があり、その狭い階段を登ると、二階はなんと金唐紙で一面に覆われた不思議な座敷。金唐紙とは和紙に金箔を押した壁紙で、西洋建築の金唐革をまねた日本独特の技法。この部屋は天井や床の間などに五種類の金唐紙をびっしりと貼り付けた空間で、往時は部屋を閉め切って灯明の揺れる光の中に浮かび上がる幻想的で妖しげな風情を楽しんでいた模様です。

 

 

 この座敷の奥の同じ棟に洋館があり、こちらは正統的な洋間ですが、やはり天井に金唐紙を張ってあります。どうやら火事があったらしく、そのせいか天井が黒く煤けてしまい、座敷ほどには綺麗に残っていませんが。意匠としては天井周りが優れ、白漆喰のレリーフの装飾は見所。

 

 この洋間に隣りあわせで茶室があり、接客用に作られたものとか。床柱や天井の気抜け窓に竹を使った四畳半の部屋で、洋間共々外国人のバイヤー相手の部屋だった模様です。

 



 「林家住宅」
   〒394-0043 長野県岡谷市御倉町2-20
   電話番号 0266-22-2330
   開館時間 AM9:00〜PM4:30
   休館日 12/1〜2月末 月曜日 祝日や振替休日の翌日