白雲邸 (はくうんてい) 横浜市指定文化財



 五万坪もの広さを持つ横浜本牧の三渓園、なんとこの敷地は原三渓の本邸だったもので、絹の貿易商としてありあまる財力をもって、自分の庭に三重塔やら紀州徳川家の別邸等を次々と移築したのがその概要。さらに「寝覚物語絵巻」「一字蓮台法華経」等の国宝級古美術を多数蒐集し、日本画の巨匠横山大観や前田青邨のパトロンとして画家の若き頃に住まわせ面倒を見て、往時の華やかな文化的サロンとして機能していました。その最盛期だった明治末期に建てられた三渓の邸宅は、鶴翔閣という雄大で豪華な御屋敷が苑内でも目立つ場所に復元されているのですが、晩年の大正後期に建てられた隠居所の白雲邸は逆に隠れるようにひっそりと残されています。
 苑内は内苑と外苑とに分かれ、外苑はわりと早い時期から一般に公開されて市民に親しまれて来ましたが、内苑は戦後の1958年(昭和33年)まで長く非公開だった三渓のプライベートゾーンだった場所でした。先に建てられた鶴翔閣は外苑にあり、三重塔と共に三渓園のシンボル的な存在でしたが、内苑の御門を潜って右手の築地塀に囲まれた白雲邸は、今でも通常は非公開のためそれと知られることがありません。
 そんな普段は屋根の頭を垣間見ることしか出来ない白雲邸も、夏の暑い盛りに半月ばかり公開されます。いつも固く閉ざされた門の奥は、意外と建物の玄関が近く、おまけに玄関が狭くて小暗いので洞窟の中へ入っていくような心持です。

 

 

 白雲邸は1920年(大正9年)に建造され、原三渓自身が設計したとの謂れを持つ建物で、隣に移築された紀州徳川家の別邸だった臨春閣と呼応するように、L字型の平面を持つ平屋の和風建築です。その臨春閣とはかつて玄関横から渡り廊下で繋がっていた模様。建物の外観は屋根が檜皮葺きの入母屋造りで、南面と西面に銅板の庇を廻した構造。屋根と庇との取り合わせがバランスの良い外観は隣の臨春閣に似せたもので、古建築の移築場所に最っも気を配った三渓らしい設計なのでしょう。

 

 内部は隠居所として静かに暮らす為か、華美な部分は殆ど無いシンプルな意匠。ただ簡素であっても造りは非常に繊細で、書院造の端正さと数寄屋造りの優美さを融合した非常に質の高い空間です。
 一番奥の書院は、ここだけ凝った意匠の棚や螺鈿を散りばめた戸袋を配した小間で、夫人用に設えた部屋。この書院に織田有楽斎好みの「春草蘆」が付属していましたが、戦争中に疎開し戦後は現在の内苑奥に移築されました。

 

 

 大正時代の建造物なので、談話室の天井には西洋建築の骨組み構造であるトラスが導入されています。また当時としては最先端の電話室も造られています。

 

 豪華な外苑・内苑に比べるとこの白雲邸の庭は建物同様にシンプルの一言。巨万の富を得た人物も晩年はシンプルライフに徹していたようで、この風景を眺めながら余生を静かに暮らしたのでしょう。

 



 「三渓園」
  〒231-0824 神奈川県横浜市中区本牧三之谷58-1
  電話番号 045-621-0364・045-621-0365
  FAX番号 045-621-6343
  開園時間 AM9:00〜PM5:00 (入園はPM4:30まで)
  休園日 12月29・30・31日
  白雲邸は通常非公開 特別公開あり