夏油温泉
 (げとうおんせん)



 ブナに覆われた深い深い森の中に、鄙びた湯治場の夏油温泉があります。北上駅からバスに乗ること一時間あまり、曲りくねった細い山道を緩やかに進むと、渓谷沿いに数件の旅館が現れてきます。現在旅館は4件、自炊施設のある「元湯夏油」、自炊専門の「昭和館」、国民宿舎の「夏油山荘」、それに「夏油温泉観光ホテル」。冬になると山道は雪に閉ざされてしまう為、旅館は全て休業します。
 古来湯治場として良く知られているこの温泉は開湯がおよそ850年前、北上周辺の農閑期のお百姓さん達が、きつい野良仕事で痛めた体を、ここのお湯でその疲れを癒す為に良く訪れました。今でも地元のおじちゃんおばちゃん達が、和やかにお湯に浸かりに訪れています。
 自炊の出来る「元湯夏油」には、「夏油館」「紅葉館」「経塚館」「薬師館」の4棟の自炊専用の建物があり、隣接した「昭和館」と共に一つのコミュニティスペースを作り出しています。年季の入ったいい感じの古い建物に囲まれた中央通路には、売店や食堂に鍼灸所が並び、ベンチでは湯治客達が浴衣姿でのんびりと歓談して過ごす、穏やかな場所になっています。「昭和館」前では自家製のマムシ酒も売られていました。

 

 

 「元湯夏油」には7つのお湯があり、うち露天風呂が4つ、内風呂が2つあります。露天風呂はいずれも夏油川沿いの渓谷に作られており、混浴が中心です。いずれのお湯もそれぞれ効能が違い、例えば「大湯」は神経痛なら「真湯」は消化器に良く、「女の湯」は眼病に良いなどと色々バラエティに富んでいます。湯治には入る順番があるそうで、まず軽めの「真湯」から浸かり、何日もかけて段々とランクアップして最後にハードな「大湯」でグランドフィナーレを迎える模様です。
 その一番奥にある大きな「大湯」は少し白濁したお湯。とても熱い為か少し入って直ぐに出て、川風に裸体をさらす人が多いようです。森林美と渓谷の眺めが雄大なお風呂です。「大湯」から少し下流にある「疝気の湯」は川岸にあるフルオープンの露天風呂。扇形の小さなお風呂でかなりぬるめです。真中からポコッポコッとあぶくが出ていて、なんでも痔に良いそうです。

 

 さらに下流にあるのが「真湯」。「大湯」程ではありませんがやや熱め。胃腸病や喘息・結核・虚弱体質に良いそうです。川を挟んで対面にあるのが「女の湯」。崖っ縁に出来た小さなお風呂で、とてもぬるく長湯の人が多いようです。ホウ酸性が強くて眼病に効能ありとのことです。この二つのお湯は橋を渡って行き来出来るので、すっぽんぽんのオジサン達が何度も川渡りをするのが拝見できます。

 

 

 「大湯」へ降りる階段の途中に「滝の湯」があります。外観は丸太小屋風の建物で、中のお風呂はやや白濁したお湯。皮膚病や切り傷に効果があるそうです。
 ユニークなのが、「夏油山荘」脇の川沿いの道を進んで橋を渡り、支流の沢沿いの山道を辿ると現れる「洞窟のむし風呂」。ここは無料の入浴自由のお湯で、石灰華が付着した洞窟に湧き出るお風呂。照明がありません。洞窟の横には「蛇の湯の滝」があり、風呂上りに観瀑を楽しむのもなかなかです。(現在は入浴不可)

 

 

 「元湯夏油」は旅館部と自炊部が半々で、旅館部の御飯はなかなかに旨いです。虹鱒の刺身・山菜の天ぷら・ふきの煮付け・きのこ鍋等素朴ですが滋味深い物ばかり。名物の「曲竹」と呼ばれる巨大な竹の焼き物が必ず付きます。朝は大広間でバイキング形式、これもなかなかに美味しい物ばかりでした。





  「元湯夏油」
   〒024-0322 岩手県北上市和賀町岩崎新田1-22
   電話番号 090-5834-5151
   冬季連絡先 0197-64-6375
   営業期間 5月中〜11月中