越中屋ホテル (えっちゅうやホテル)



 小樽は港の無い札幌の外港として発展した貿易都市ですから、その昔は日銀を始めとする金融機関や大手商社の支店が数多く進出して、”北のウォール街”とも呼ばれるぐらいにビジネスタウンとしてとても賑わいを見せた町でした。寒冷地ですから石造りや煉瓦積みによる強固で重厚な建物が好まれたようで、特に運河沿いの倉庫群が見せる冬の雪景色は独特の風情があります。
 その今では観光客がウジャウジャ来る小樽運河近くの一角に、とてもモダンな外観のビルがあります。周囲は日銀や三井銀行の支店等の金融機関が密集する金融街のド真ん中、ちょっと場違いな印象の建物ですが、越中屋ホテルという外国人逗留用の為のホテルで、つい数年前までは実際にホテルとしても営業していました。

 

 市内に越中屋旅館という明治10年に創業した老舗旅館があり(今でも営業中)、英国の旅行書にも記載されたことがあるように外国人の逗留が多かったようで、その経営者が別館として道内初の外国人客専用のホテルを造ることになり、1931年(昭和6年)に開業しています。
 鉄筋コンクリート造り4階建てで、壁面には手焼きのレンガタイルを張り、正面中央には二列のベイウィンドウを設け、両脇に丸窓と垂直の窓割りによる幾何学的な意匠で構成されており、当時流行のアールデコの影響が見られます。設計を担当したのは倉沢国治。

 

 このホテルは色々と数奇な運命を辿った過去があり、ホテルとしての運営はわずか10年程で、第二次世界大戦中の1942年(昭和17年)に陸軍に徴収されて軍総司令部の将校クラブとして使われ、戦後は1945年(昭和20年)に米軍に接収されて1950年(昭和25年)に越中屋旅館に返還されますが、1952年(昭和27年)に相続税の一部として大蔵省の所有となり、1955年(昭和30年)には北海製罐が払い下げを受けて取り壊しを逃れ、1986年(昭和61年)にアドバンテスト社がゲストハウスとして原型をとどめて改修し、1993年(平成5年)に地元の小樽グランドホテルの別館として”小樽グランドホテルホテルクラシック”の名称で再出発しました。
 が、折からのリーマンショックのあおりを受けて2009年(平成21年)に親元のホテルが破綻し、再び閉館しています。

 

 

 内部の一番の見所はステンドグラスで、アールデコ様式による美しいガラスが館内いたるところに散りばめられています。今見てもとても洗練された洒落た空間ですし、観光スポットにも近いことですから、何らかの形での再開を望みたいですね。

  

  



 「旧越中屋ホテル」
  〒047-0031 北海道小樽市色内1-8-25