長岳寺 (ちょうがくじ) 重要文化財



 山の辺の道の南ブロックを歩く際に、北の石上神宮から始めても南の桜井駅から始めてもだいたい同じ距離で、中間地点の長岳寺に辿り着きます。一息入れるのにちょうど良く、庫裏で出される地元名物そうめん・にゅうめんも美味しく、なんだったら西へ1Km程歩くとJR桜井線の柳本駅があるのでここでショートカットして誤魔化すことも可能。近辺は大和盆地のなだらかな丘陵に農村や寺社が点在する長閑な田園風景で、大和王権の中核地だったこともあって大小様々な古墳が密集する古墳銀座にもなっています。
 その長岳寺は弘法大師開基の謂れもある真言宗高野山派の寺院で、平安初期の824年(天長元年)に創建された古刹。繁栄期には48の塔頭を数えるほどの隆盛を見せましたが、応仁の乱による焼失や秀吉の領地没収で衰退し、さらに明治期の廃仏毀釈によって致命的なダメージを受けて、今は山裾にひっそりと佇むローカルなお寺となってしまいました。総門から奥の本堂までは約200m程ありますが、参道の両側にはかつては塔頭が並んでいたのでしょう、今では畑と草が生い茂るのみ。
 参道に魔除けとして張られた勧請縄を潜ると総門があり、その先の躑躅の生垣の道を進むと今度は鐘楼門がお目見えします。

 

 この鐘楼門は平安期に建造された日本最古の鐘楼門で、創建当時の唯一残る建物。一間一戸の小規模な門で、上層は屋根が入母屋造りの柿葺に出三斗のシンプルな和様ですが、下層は桃山期の改変があったらしく上層のような平安期の姿を留めていないようです。が、柿葺による軽快な反りを見せる軒先や全体のプロポーションが品良くバランスが取れていて、平安期らしい優美な姿を見せています。国の重要文化財指定。かつては国宝でした。
 この長岳寺のシンボル的な存在らしく、この門をバックに記念撮影をする方が多いようですね。

 

 でこの鐘楼門の少し手前にあるのが旧地蔵院本堂・庫裏。元は塔頭の一つだった地蔵院の建物で、本坊のが失われて現在は寺の庫裏として使われています。本堂と庫裏が一体化した建物で、庫裏が江戸初期の1630年(寛永7年)、本堂が1631年(寛永8年)に建造されています。共に国の重要文化財指定。
 庫裏は屋根が切妻造の杉皮葺で、大きさは桁行19.3m奥行12.9mの平屋建て。南面中央に唐破風屋根の玄関部が突出しており、ここから右手の東側が土間となっていて、ここでそうめん・にゅうめんが味わえます。この土間部は寺院と言うよりも農家の土間のような趣で、大きなおくどさんもあります。

 

 玄関より左手の西側は客殿と本堂。客殿の南側は玄関から吹き放しの広縁が伸びて奥の本堂へと続き、その北側に6部屋が禅宗寺院の方丈形式のような配置で並びます。ここで注目は部屋の欄間の違いで、南西隅の主室にあたる8畳間と、その東隣との8畳間との間は竹の節欄間で天井に境は無く、逆に南西隅の8畳間と北側の8畳間との間は筬欄間で区切られ天井も分けられています。これは南側の庭園沿いの二室は対面所の役目を果たしており、北側の部屋は住職の私室として使われていたと思われ、それぞれの床の間・付書院の意匠からも読み取れます。京都東寺観智院と似た構成。

 

 

 広縁の南側は狭いながらも瀟洒な庭園があります。鶴亀式の造りで、誰が見ても良く判る亀島。

 

 奥に控える本堂は宝形造りのコンパクトな持仏堂で、大きさは桁行が正面3間背面2間に奥行2間、屋根は檜皮葺です。桐の花の透かし彫りが入った桟唐戸や花頭窓等に禅宗様式が見られ、唐獅子と草花模様が彫り込まれた蟇股は桃山風のもので、小規模ながらも凝った細工が色々と見られる仏堂です。

 

 鐘楼門の奥は本堂を始めとする諸堂が森の中に点在しています。本堂は江戸中期の1783年(天明3年)に再建されたもので、内部に本尊の阿弥陀三尊像や多聞天・増長天(何れも国重文)を安置しています。
 本堂の眼前は放生池が広がり、周囲を深い木立が覆います。同じ奈良近郊の浄瑠璃寺や円成寺と同じく浄土式の庭園で、十三重塔や大師堂が池の周囲に点在しています。
 本堂の対面に鐘堂があって誰でも自由に撞くことが出来るので、鐘の音が始終聞こえます。

 

 

 山内から離れて柳本の集落内に寺の飛び地があり、そこに五智堂という鐘楼のような小さな建物があります。太い心柱を立てて宝形造の屋根を支えたから傘お化けのような形状で、その姿から傘堂とも呼ばれています。心柱上部には東西南北四面に梵字を刻んだ額が取り付けられており、それぞれ金剛界四仏を表しているとか。鎌倉後期の建造で国の重要文化財。
 ここは旧街道である上街道と、門前の参道とが合流する地点で、江戸期の幹線道だった上街道を行き来する人々の安全祈願の意味があったようです。ここから南のJR柳本駅までは旧街道沿いらしく虫籠窓や格子窓のある町家や老舗の造り酒屋が軒を並べており、大和の風情ある街並みが残されています。

  



 「長岳寺」
   〒632-0052 奈良県天理市柳本町508
   電話番号 0743-66-1051
   拝観時間 AM10:00〜PM5:00 年中無休