仏生山 (ぶっしょうざん)



 埠頭近くの高松築港駅から琴平電鉄のレトロな電車に乗り、高松市郊外の麦畑の中をガタガタ揺れること15分程で仏生山という小さな駅に到着します。駅舎はこじんまりとしていますが電車の検車区と工場があるので構内はわりと広く、特に高松築港方面のホームへ行くには構内踏切を二回渡らないと辿り着けません。同じ線路を二回渡ったりもします。駅舎もそこそこ年季が入っていますがホームには長い木製のベンチがあり、座布団が大量に敷かれて優しい感じ。このゆるい雰囲気がこの街の魅力を代弁しています。

 

 この仏生山駅のある高松市仏生山地区は、法然上人所縁の法然寺の門前町として江戸期から開けた土地で、1956年(昭和31年)に高松市に併合されるまでは仏生山町として独立した行政区分でした。地名は法然寺の山号から。
 駅周辺は商店街と住宅街が並ぶ、ごく普通の日常的な風景。郊外のベッドタウンとしても機能しているので、あんまり見所はありません。駅前通りを東へ400m程進み、十字路を右折して旧仏生山街道に入ると風景は一変し、甍を葺いた重厚な面構えの町家が点在して建ち、寺社が混在するむかし町の風情を見せています。高松市中心部からダイレクトに南下するこの旧道がかつてのメインストリートだったようで、南端の法然寺に近づくほど門前町の匂いが強くなっていきます。
 なんでも昭和の終わり頃まではこういった古い町家がびっしりと建ち並んでいたようですが、やはりバブルの波はこんな田舎町にも来襲したようですね。うまく残っていれば重伝地区にも選ばれていたかもしれません。

 

 

 そんな趣のある町家群の中でも最も秀麗な姿を見せるのが、酢醸造の神崎屋。創業が江戸中期の1789年(天明9年)にまで遡る老舗の造り酢屋で、「吉の酢」というブランドで海外にも輸出しています。出格子や虫籠窓が美しい店側のファサードも魅力的ですが、裏に回るとチャコールグレイの板壁で覆われた工場の中を市道が貫いており、通り抜けるとやや甘酸っぱい香りが漂います。

 

 

 そんな古い街並みの中に、ちょいとばかり小洒落たカフェもあったりします。「アジール」という名のカフェで、わざわざ車で来店するほどの盛況ぶり。ここも古い町家を改築してあるそうで、ギャラリーも併設しています。アジールは中世の西洋における無縁地・避難所を指すので、この街の歴史から見れば真っ当な命名なのでしょう。
 異色物件としては駅近くに旅芸人の芝居小屋があることですかね。これもこの街の歴史を見れば納得のいくところ。

 

 旧仏生山街道を南に進むと池の畔に辿り着き、法然寺の総門前に出ます。前池と呼ばれる池沿いの参道を西に進むと仁王門の前に出ますが、本堂拝観はずっと東にある本堂門の方が近いです。
 参道の南側に広がる池越しの山並みの風景は、讃岐平野独特の景色。

 

 その法然寺は、法然上人が当地に流刑されて逗留した場所を、江戸前期の1668年(寛文8年)に黄門様の実兄の藩主松平頼重が建立し菩提寺とした寺院で、山内には本堂・書院・三仏堂・祖師堂等の幾つもの堂宇が建ち並んでいます。いわゆる城郭寺院で、小さな山一つが全て寺域になっており、前池は掘割代わりとなっていた模様。藩主の玉藻城から真南にあたる当寺が阿波・土佐への押さえの役目を担っていたようです。
 ここで面白いのが三仏堂にある寝釈迦像で、釈迦の涅槃時を現したもの。絵画ではよく見る題材ですが、立体的に表現したものは珍しく、特に横になっている大きなお釈迦様の周りに、鳥獣人物52体が取り囲んで嘆き哀しむ姿が印象的。庫裏で拝観を申し込むと、書院から渡り廊下で本堂・祖師堂・三仏堂と順繰りに廻れます。

 

 

 ここでお薦めが、仁王門前にある手打ちうどんの「龍雲」。この法然寺は知的障害者の為の学校法人を運営しており、その生徒達によって花卉栽培・うどん製造販売・境内の環境整備を行っているとかで、このうどん屋でも生徒達が日夜熱心に働いているようです。
 ざるうどんがメインの店なのですが、温玉が入った胡麻だれはややスパイシーでこくがあり、小鉢に御飯も付くので、うどん完食後はそのままたれをぶっかけて二度楽しむことが可能。ピリ辛の坦々たれもあり、うどんを中華そばに替えることも出来ます。
 真ん前には花屋もあり。

 

 

 駅から旧仏生山街道へは向かわず、そのまま東へ直進し200m程進むとあるのが日帰り温泉施設の「仏生山温泉」。えらくモダンな建物ですが、手がけたのが番台役でもある建築家の岡昇平氏。地元に帰ってから町再生のプロジェクトの牽引役を務めているそうで、この銭湯もその一環。浴場もパティオ風に中央部が開放されており、露天風呂も備えてあります。
 ユニークなのが番台横に古本屋があり、200円均一で文庫本が売られてあります。ここで購入して、浴場のウッドデッキで全裸で寝ころんで読書に耽る御仁もいるとか。
 隣ではオリジナルの石鹸と讃岐名物のうちわも販売中。

 

 



 「法然寺」
   〒761-8078 香川県高松市仏生山町甲3215
   電話番号 087-889-0406
   拝観時間 AM9:00〜PM4:30 年中無休

 「龍雲うどん」
   〒761-8078 香川県高松市仏生山町甲3208-9
   電話番号 087-889-0724
   営業時間 AM10:00〜PM3:00
   休業日 火曜日

 「仏生山温泉」
   〒761-8079 香川県高松市仏生山町乙114-5
   電話番号 087-889-7750
   営業時間 AM11:00〜PM12:00 土日祝はAM9:00〜
   休業日 第四火曜日